海賊王子ヒースコート(1)
「大丈夫だ。怪我するようなことじゃない」
なお心配だという表情のアイリーンに、ヒースコートは優しく言い聞かせた。
「平気だから、レディーは先に寝ててくれ。夜更かしは良くないからな」
ポンとアイリーンの頭に手をのせる。
(あ、また…)
頭を撫でられると、どうしても記憶の男の子と彼が重なる。
その度にアイリーンの胸は不自然なくらい高鳴るのだから困りものだ。
彼女は何か言おうと口を開きかけたが、結局言葉が浮かばず俯いた。
俯いて、視界に入ったものは薬指におさまる婚約指輪。
(ギルバート様…)
波のごとく揺れる心。
まだそれは小さな波でしかなかった。