海賊王子ヒースコート(1)
と、その時。
「あ、あの…すみません」
集中しているヒースコートの邪魔をしないようにと、誰もが声をひそめていたにもかかわらず、この場の空気を読めない人物が登場した。
アイリーンだ。
「アイリーンちゃん、どうしたの?」
突然やって来た彼女にエリオットがいち早く反応する。
「あの…気分がすぐれなくて、寝付けないので…エリオットさんに眠り薬をいただこうかと」
「なんだ。それなら一緒においで。僕の部屋へ行こう」
エスコートするようにエリオットがアイリーンの腰を引き寄せた瞬間だった。
ドスッ――!!
エリオットの鼻先をかすめ、壁にナイフが突き刺さった。
「気安く触るな」
ナイフを投げた犯人はヒースコートだった。
「おっと、ヒースコートを怒らせちゃったみたいだね」
標的にされたというのに、いつもの調子を崩さずニコニコと微笑むエリオット。
誰もが一瞬冷や汗をかいた状況で笑顔を絶やさずにいられるなんて、彼の心臓には毛が生えているに違いない。