海賊王子ヒースコート(1)
「どうした?春とはいえ夜は冷える。レディーの身体に良くないぞ」
酒ビンを手で弄びつつアイリーンを見つめる。
「ヒースコートさんが、いらっしゃると聞いて…」
「そうか…。離れてすまなかった。中へ戻ろう」
そのまま船内へ入ろうと歩き出す彼の背中をアイリーンは慌てて呼び止めた。
「あ、あの!」
「うん?」
「先程の歌……有名なのですか?」
「え?」
「あ、その…昼間、ダリウスさんも歌っていたので…」
さりげなく尋ねるとアッサリ頷かれてしまった。
「ああ、クレマン海賊団のメンバーは全員歌える。この海賊団の歌だからな」
「海賊の歌…?」
「そう。前の船長…タイタスが好んで歌ってたらしい。以来、彼が死んでもクレマン海賊団といえばこの歌だ」
タイタスとは、昼間に聞いたダリウスの父親だ。
(皆さん歌えるのでしたら、ダリウスさんがあの男の子だと断定はできないのですね…)
やっと再会できたと思ったのに、人違いの可能性がでてきた。
(ハッキリしたことは、その男の子がクレマン海賊団の一員だったということですね)
まさかあの思い出の少年が海賊だったなんて、と心中驚いているとヒースコートが顔を覗き込んできた。