海賊王子ヒースコート(1)
時刻はまだ昼前。
空は少し曇っていた。
風は昨日よりも強く、波も荒い。
そんな中、波と波の隙間に寝かせるかの如く、小さな遺体を入れた麻袋を順々に沈めていく船員達。
その行為は、ゴミを捨てるようにして処分した先程の捕虜達への扱いとはまるで違っていた。
「白く輝く、満月の下(モト)…離れてゆく魂が…」
甲板に集った全員が、あの歌を歌う。
海の底深くに飲み込まれていく亡きがらを悼みつつ。
「赤く怒(イカ)れる、太陽の下(モト)…命の重さを知れと…」
甲板に響くのは、波の音と男達の低い歌声。
誰かに訴えかけるように――激しく、熱く。
「人の子として生きて、愛と出会い…君の微笑みを知り、やすらぎに眠る…」
七つの麻袋を全て海に沈めると儀式は終わり、歌声も止んだ。
この海賊達の行いを、アイリーンはただ黙って目と心に焼き付けた。