海賊王子ヒースコート(1)
「少し、アイリーン嬢と二人きりで話をさせて下さい」
ギルバートの頼みを断る理由はない。
これは二人の問題なのだ。
「わかったわ」
「ありがとうございます」
「泣かせんじゃないわよ」
脅したら承知しないと釘を刺し、ヴィンセントは静かに部屋から出て行った。
「………」
沈黙が降りる室内にて、立ったままアイリーンを見下ろすギルバート。
その瞳には微かな熱を孕んでいる。
「アイリーン嬢…」
不意に呼びかけられて、アイリーンはビクリとした。
「指輪は、どうされましたか?」
「えっ」
ギルバートの視線がアイリーンの手に注がれている。
海へと投げ捨てられてしまった婚約指輪。
思い出して、アイリーンは正直に話していいものか迷った。