海賊王子ヒースコート(1)
今にも剣を抜きそうな兄を強い眼差しで抑え、アイリーンは檻に向き直った。
「ヒースさん、ダリウスさん。私、お二人が無罪になるように、港に着いたら嘆願を行います」
力強い声だったが、アイリーンの表情は切ない。
「多くの人に呼びかけて、助けてもらえるように頑張りますから…!だから…!」
――死なないで下さい
打って変わって消え入りそうな言葉が囁かれた。
しかし、ちゃんと聞き取った二人はそれぞれ口角を上げ微笑んだ。
「死んでたまるかよ。俺様をナメんな」
「船長に同意だ。簡単にはくたばらないさ」
彼らが言うと急に心強くなるから不思議だ。
安心した表情でアイリーンも笑顔を返した時――。
「アイリーン、そろそろ戻りましょう」
イライラした様子で腕組みをするヴィンセントに呼ばれた。
「はい…」
素直に立ち上がるアイリーンだったが…。
「待てっ、アイリーン!」
ヒースコートの声にもう一度檻へ向き直る。
「嘆願をするならランバートを頼れ」
「ランバートさん、ですか?」
「ああ。多分あいつらもガルニカに行くだろうから、合流して作戦を立てるんだ。いいな」
「わかりました」
ヒースコートからのアドバイスをしっかりと胸に刻み、今度こそアイリーンは船底を後にした。
そして数日後、船はセルディスタの港町、海軍のお膝元ガルニカに到着したのだった。