海賊王子ヒースコート(1)
今再びアイリーンが船に乗る理由はなかった。
陸でヒースコートの帰りを待つのが一番利口な選択だと彼女自身もわかっている。
しかし…。
「一緒に、いたいのです。ヒースさんと…」
「アイリーン……」
共にいたい気持ちはヒースコートとて同じ。
だが、今この船は私拿捕船なのだ。
気ままに色々な港町を巡る海賊船とは状況が違う。
そもそもアイリーンみたいなお嬢さんが海賊船に乗って旅を続けるなんて無茶過ぎる。
だから、ヒースコートの答えは決まっていた。
「ダメだ。アイリーンは、クオーツ島に帰れ」
「ヒースさん……」
悲しみを湛えるアイリーンの瞳。
ヒースコートはそんな彼女の頬を優しく撫でた。
「いつ帰ってくるかわからないが……待っててくれるか…?」