荒れ球リリーバー
次は、サイン入りの硬球が出て来た。

誠一郎は、今年プロ七年目。

これは、一年目にプロ初勝利を挙げた時のウイニングボールだ。

初勝利の瞬間。物凄く嬉しかった。

普通は両親に渡す物だけど、セイは私に渡してくれた。

これは、流石に処分出来ないなぁ…。

すると、突然止まる作業をしていた私の手。

「懐かしい…」と呟いた私の視線を捉えて離さないのは、汚れた古い軟式野球ボールだった。

中学時代の夏の大会。炎天下の中で行われた地区予選。誠一郎の人生初勝利の証しだ。

「セイ…緊張してたなぁ…」

ボールを握るセイの指先。凄く震えてた。

『絶対勝って!』『約束守ってよね!』

必死に応援してた中学生の自分を思い出した。

誠一郎は、白い歯の覗く照れ臭そうな笑顔と共に左手拳を天に突き上げた姿で、応えてくれた。

セイ。凄く格好良かった。

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