荒れ球リリーバー
「志乃」

背後から突然聞こえる低い声に、一瞬にして酔いが醒めた感覚を覚える。

「セイ?」

振り返った先に立つ忘れる事の出来ない男に、私は震える声で問い掛けた。

「どうして…いるの…」

「志乃に会いに来た」と言ってから、誠一郎は付け足した。

「話がある」

私も同じだよ。

会いたかった。

話したかった。

思った事をそのまま言えたら、どれだけ楽だろう。

だけど、やっぱり今日も私は素直じゃない。

「私は、会いたくないし、話したくない」

正反対の言葉が紡がれるけど、その唇は意志に関係なく話し出したら止まる事を知らない。
< 120 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop