荒れ球リリーバー
素直じゃない意地っ張りな私は、当然の如く誠一郎の前で滅多に泣くような真似はしない。

知らず知らず泣き出した自分に、私自身も驚きを隠せなかった。

「志乃…」と愛おしい声で名前を呼ばれる反射的に声の主である高身長男を見ると、私以上に驚いた顔をしていた。

「志乃。行こう」

須永先生に手を引かれ誠一郎から離れる間際、
私はチラリと後ろを振り返った。

え?と思わず動揺したのは、僅かに見えたセイの表情のせい。

「あいつ…行ったみたいだな…」

誠一郎が立ち去った事を確認した須永先生は、部屋の前に到着すると掴んだ手を離したけど今の私はそれすら気付く余裕がなかった。

「青枝先生?」

どうして?

呆然と立ち尽くす私の心の中に渦巻く疑問。

最後に見た誠一郎の顔は、私以上に悲しげな顔をしていた。
< 122 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop