荒れ球リリーバー
「大丈夫だよ。青枝先生」と言う須永先生の声が聞こえた。

どこが大丈夫なのよ?

疑問と不安を抱えながらも、固く閉ざした瞼を私は恐る恐る開けてみる。

歓声に包まれた球場とグラブの中に白球を納めた二塁手の姿が、液晶画面に映し出されていた。

「え…?なんで…?」と呟くと、問いに答えるように実況アナウンサーが話し出した。

『一二塁間を抜けようかと言う鋭い打球でしたが、セカンドが素早く反応し華麗なジャンピングキャッチを魅せました。
一打同点の場面。バッターは、セカンドライナーに倒れました。これでは、サードランナーも動けません』

実況の言葉通り、白球に飛び付く二塁手と走る事が出来ず三塁上に立ち尽くす走者が、リプレイで流された。

「あっ…この人っ…」

二死一三塁となった状況で右バッターボックスに立った打者を見て、私は小さく声を漏らした。

「どうしたの?」と須永先生が、首を傾げて尋ねて来る。

「セイの苦手なバッターなんです」

対戦成績4割8分1厘と言う数字故に、彼は高岡キラーと呼称される打者だ。
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