荒れ球リリーバー
1球目。
140㎞代前半の直球を投げ、空振りを取る。

2球目。
低めに切れ込むスライダーは、真後ろへ飛ぶファウルボールになった。

瞬く間に追い込んだが、高岡キラーはツーストライクから本領発揮する。

通常の打者なら打ち損じる誠一郎の難しい球に対して、彼は上手くファウルボールにして粘りボール球を見極め投球を重ねる内入る失投を待ち見逃さない。

誠一郎が九球程を投げる中、画面隅に表示されたスコアテロップは、スリーボールツーストライクになった。

緊迫した試合中、ふいに映る白球を握ったセイの左手指先は微かに震えてた。

緊張から来る震えだと言う事を察した私の脳裏に、遠い日の記憶が過る。

思い出すのは、炎天下の中で掴んだ人生初勝利の瞬間。

中学生の誠一郎と野球選手の誠一郎が、私の中で重なった気がした瞬間、私は椅子から立ち上がり画面越しの誠一郎に向かって叫んでた。

「セイッッ!!」

聞こえる筈ないのに、叫ばずにはいられない。
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