荒れ球リリーバー
私は、自然と両手を胸の前で組みセイの勝利を祈る。

あの日のように、空を切る打者のバット。

そして、やっぱりあの日のように球場内に響き渡る審判の声。

「ストライクスリー!」

右手拳を突き上げる仕草と共に宣告された。

「アウト!」

球場内は、今日一番の大歓声に包み込まれる。

同時に、ビジターチームの応援席であるレフトスタンドからは溜め息が漏れた。

自らピンチを作り出しながらも抑えた誠一郎は、小さく左手拳を握り締め勇ましい顔して吼えた。

野球好きが集う居酒屋内も、本日最大の危機を乗り越えた事で喜びの声に満ち溢れる。

一方私は、誠一郎の投球を見守る緊張感からようやく解放され、身体中の力が抜けて行く。

胸の前で組んでいた両手をヘナヘナと力なく下ろし、盛大に喜ぶ余裕など皆無だ。

「よかった…」

更なる賑わいを見せる店内とは対照的に、小さく呟き噛み締めた大きな喜び。

マウンドから笑顔で走り去る誠一郎を見つめ続けた。
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