荒れ球リリーバー
ナインとピッチングコーチに囲まれ軽く会話を交わした後、誠一郎はマウンドから降りて行った。

俯く横顔は、歯を食い縛り悔し気だった。

「セイ…」

自然と呟いた名前は、球場内に響く声援に掻き消された。

その後、逆転され試合は終了した。



球場内の通路を須永先生と歩く、セイの事が気掛かりな私は言葉数も少ない。

「熱心に見てたね」

須永先生が、突然言った。

「そうですか?」

私は、小首を傾げて惚けた。

「高岡の時、特に熱心だったよ」

祈る私を見ていたらしい。

「セイって、高岡の事?」

掻き消された筈の名前も聞いていたらしい。

「違いますよ」と否定するのに、彼は話続けた。

「青枝先生の彼氏って誰?」

突如された質問に人混みの中、私は立ち止まった。
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