荒れ球リリーバー
応援しただけ。

名前を呟いただけ。

なのに、セイと私の事勘付いてる?

「彼氏。誰か、当てようか?」

私の数歩前で歩みを止めた須永先生は、そう言って後ろを振り返った。

「あれ?青枝先生?」

だけど、そこに私の姿はなかった。

突然腕を掴まれグイッと引きずり込まれた先は、薄暗い関係者専用通路。

「セイッ!?」

目の前には、私の脳内八割を占拠する男。

「シッ」と人差し指を口に当て、誠一郎は私を抱き締めた。

扉の隙間越しに、息を潜め須永先生の様子を窺っている。

氷や水等を用いて身体を局所的に冷却するアイシングを左肩に施し、タオル地のアイシングポンチョを羽織る誠一郎。

ポンチョの隙間から覗く鎖骨は、色気を醸し出す。

不覚にもドキドキする。

「行ったか…」と、誠一郎は呟いた。

須永先生が、立ち去ったらしい。

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