荒れ球リリーバー
「そんなにサイン嬉しかったんだな」
共に肩を並べて歩く居酒屋からの帰り道。
エッセイ本の入った紙袋をニヤニヤしながら見る私を柔らかな笑顔で見守る誠一郎。
違うよ。セイ。
サインは勿論嬉しい。
けどそれ以上に、日常の何気無い出来事を記憶して、私を想うセイの気持ちが物凄く嬉しいの。
サイン以上に価値のある事実なの。
なんて事は素直じゃない私には世界が逆転しても言えそうにないけれど、責めて笑顔でお礼ぐらいは言わせて欲しい。
「ありがとう」
「うん…」
白い歯の覗く照れくさそうな笑顔を見せる誠一郎は、やっぱり今日も物凄く格好良い。
だから。ほら。止まらない。
高鳴る鼓動と好きの気持ち。
止まらない。