荒れ球リリーバー
私の頭には、信じて止まない言葉が相変わらず響き渡る。

『俺、志乃以外の女の料理食いたくない』

素直じゃない。可愛いげのない。自信のない。

そんな私にとって。

セイに料理を作る事は。キッチンに立つ事は。

彼女だって。特別だって。

実感出来る唯一の特権だった。

だけど、今日それすらもなくなった。

もう彼女じゃない。もう特別じゃない。

私。本当に何もない。

自覚したら、瞳から涙がボロボロと溢れ出す。

涙を隠す為、私は俯いた。

「志乃?」

腕を離して私の顔に、誠一郎は左手を伸ばした。

パシッ

いつかのように、その大きな左手を軽くはたき返した。
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