主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
里帰り
「主さま、お帰りなさい」


夫婦になって3か月――

まだ夜が明けていない時間に百鬼夜行から戻って来た主さまを縁側で出迎えたのは、息吹だ。

花のような笑顔で縁側に座り、主さまと共に戻って来た百鬼たちに労いの言葉をかけては今夜の成果を語る百鬼たちと談笑する。


まだ実は新婚気分を味わいたい主さまは、自分専用だった部屋を息吹と共同にしたので、いち早くそこへ行って2人きりになりたくて、いらいらしていた。


「おい十六夜、態度丸出しだぞ。皆だって息吹と話したいんだ、もう少し待ってやれ」


「…うるさい。…もう寝る」


ふてくされた主さまがさっさと部屋へ入って行くと、それを見てきょとんとしていた息吹は足元にじゃれついていた猫又の頭を撫でて、隣に視線を落とした。


「じゃあ雪ちゃん、後はお願いね。お休みなさい」


「ん、わかった。花の水遣りは俺がやっておくから」


「駄目だよ後で一緒にしよ。母様、後をお願いします」


「あいよ。主さまの機嫌が悪いからちゃんと直してやっておくれ。でないとあたしたちにまで被害が及ぶからね」


父代わりの晴明と夫婦になった山姫は、今も主さまの屋敷に残っている。

朝になると晴明が山姫を迎えに来て、夜になるまで共に過ごすのが日課となっているが、隣に立っている小さな雪男は3か月前まではただの氷の塊でしかなかった。


なので今はまだ童子の姿をしているが、いずれは元の姿になると晴明に言われたので、安心していたのだが…


「主さまー、お待たせ。もう寝ちゃったの?お話はしないの?怒ってるの?」


「…怒ってない。…お前は雪男を気にし過ぎだ。あれは元々立派な成人の男だぞ」


「でも今は小さいし、大きくなるまでちゃんと見てあげなくちゃ。ね、主さま、この子もお利口さんなんだよ、ずっと寝てたんだから」


床には先客が居た。

まだ1歳にも満たない小さな女の子がすやすやと眠り、息吹はこの赤子に“若葉”という名を授けて可愛がっている。

…不運にも幽玄橋で捨てられたため、同じ境遇の息吹は不思議な縁を感じて、父代わりの銀から世話を任されて…いや、志願して育てる決意をしている。


「私も早く赤ちゃん欲しいなあ。ね、主さま」


「……お、俺に聞くな。寝ていなかったんだろう?早く寝ろ」


「やだ。お話しようよ、今日はどうだったの?お話聞いたら寝るから」


「今日は西へ行って…」


主さまがぽつぽつと語り始める。

息吹にしか見せない表情、息吹と話している時にだけしか出さない優しい声色で。


夫婦になってから新たな発見が沢山ある。

息吹は宝物だ。
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