主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
一緒に食事をする時間だけはずっと持ち続けていたい――

人ではあるが、人ではなくなった息吹は歳を取らない。

いや…ものすごくゆっくりと歳を取っていくのだろうが、それは神の領域。

だが妖とは違ってちゃんとお腹が空くので、主さまにはいつも付き合ってもらうようにお願いしている。


息吹はしっかりと米を噛みつつなるべく急いで食事をしていた。

晴明から厳しく躾けられていたのでみっともない食べ方をしない息吹の食事風景を、実は主さまは毎日楽しみにしていた。


「そろそろ晴明が来る。後片付けは山姫に任せて用意をしろ」


「ちょ、ちょっと待って、お化粧しないと…」


「しなくてもいい。…してもしなくても同じだろうが」


「主さまひどいっ。じゃあちょっとだけ時間ちょうだいね。すぐ行くからっ」


夫婦の部屋に行く息吹を見送った主さまが肩を竦めていると、山姫がこそりと笑って茶碗を手に腰を上げながら同情する。


「“化粧なんかしなくてもお前はいつも綺麗だ”って言ったつもりなんでしょう?主さま…そんなんじゃ息吹に呆れられて捨てられちまいますよ」


「…うるさい。山姫、雪男、俺の留守を頼んだぞ」


「はい、お気を付けて」


百鬼の結束は固い。

元々彼らは父親の潭月…いや、潭月よりも前の代から百鬼夜行をしている者が多く、数百年もの間顔見知りで仲間なので、代々主さまたち一族が重々言い付けている“人を殺さず”を守り抜き、そして幽玄町を守護している。

その百鬼たちの筆頭である山姫と雪男は主さまの側近中の側近なので、留守を任されれば他にしなければならないことを放り出してでも、守り抜く。


「主さまお待たせっ。あっ、父様!八咫烏さんも!」


やんわりと微笑みながら庭に立っている晴明の傍らには、見上げなければならないほどに大きな3本足の真っ黒な鴉が佇み、晴明に嘴を撫でてもらうと嬉しそうにくるると鳴いた。


「飛んでいる間も揺れぬように術をかけておいてあげるからね。荷物も沢山載るから好きなだけ載せなさい」


「ありがとう!父様大好き!」


薄化粧をしていつもより可愛くなった息吹の頭を撫でた娘一筋の晴明の猫可愛がりぶりに胸やけを起こした主さまは、脚を折って乗りやすいように伏せた八咫烏の背中に先に乗り込むと、息吹に向けて手を伸ばした。


「よし、行こう」


「うんっ」


主さまの両親は、どんな人たちだろうか?

――息吹の胸は期待と不安でいっぱいだった。
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