主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
願わくば主さまの妻を罵倒して傷つけて離縁させてやろうと考えていた胡蝶の計画は見事に瓦解した。
にこにこしている息吹を見ていると怒る気も反論する気も失せてしまい、近くをうろうろ歩き回ってこちらを見ている猫又を呼び寄せてふかふかの尻尾に触りながら笑いかける。
「今から主さまとお茶しませんか?私が言った通り主さまに優しくしてくれたら、主さまもそう返してくれます。ね、やってみるだけただだし、いいでしょう?」
「…もし冷たくされたらどうするつもり?指の1本でも貰って食ってもいいのかしら」
「じゃあいいですよ」
「息吹!そんな約束しちゃ駄目にゃ!」
喉をごろごろ鳴らして横たわっていた猫又がすくっと起き上がって反論すると、息吹は狭い額を撫でてやりながらおどけるように肩を竦めて見せた。
「主さまは優しい人だから大丈夫。じゃあ胡蝶さん、戻りましょうか」
「……約束したわよ。もしお前の言う通りにならなかったら…」
「大丈夫ですってば。ふふ、主さまも疑い深いところがあるけどさすが姉弟ですね」
息吹に笑われてむっとなったが、茣蓙を巻いて脇に抱えた息吹はさっさと屋敷の方へ向かって行ってしまった。
そんな息吹が転ばないようにと猫又が足元に気を付けながら先導していて、主さまの子供を身籠った息吹を羨ましく思いつつも、戸惑いも覚えた。
「主さま、父様、戻りました。一緒にお茶しようよ」
「…胡蝶に何もされなかっただろうな?」
「されてないってば。でも美男美女の姉弟で憧れちゃう。胡蝶さん、帰らずに待ってて下さいね」
――息吹が去ると、残された胡蝶は主さまと晴明にじっと見つめられて憮然としながら縁側に腰掛けた。
そして息吹の言う通りになるならば…という淡い期待を持って、咳払いをすると黙って腕を組んだままの主さまに声をかけた。
「……あの娘は変わっているわね。気を削がれるわ」
「…しとやかに見えても一本芯が通っていて融通が利かない所がある。…茶会もどうせ息吹の案だろう?」
…問うてきた主さまの反応は冷たいものではなく、台所の方を見ている主さまの横顔は笑みさえ浮かべている。
「…お前は変わったわ」
「いい意味に取っておく。息吹と親しくなったのならば茶でも飲んでいけ」
胡蝶が密かにほっとした笑みを見せた。
晴明はそれを見て扇子で顔を隠すと笑みを堪えた。
にこにこしている息吹を見ていると怒る気も反論する気も失せてしまい、近くをうろうろ歩き回ってこちらを見ている猫又を呼び寄せてふかふかの尻尾に触りながら笑いかける。
「今から主さまとお茶しませんか?私が言った通り主さまに優しくしてくれたら、主さまもそう返してくれます。ね、やってみるだけただだし、いいでしょう?」
「…もし冷たくされたらどうするつもり?指の1本でも貰って食ってもいいのかしら」
「じゃあいいですよ」
「息吹!そんな約束しちゃ駄目にゃ!」
喉をごろごろ鳴らして横たわっていた猫又がすくっと起き上がって反論すると、息吹は狭い額を撫でてやりながらおどけるように肩を竦めて見せた。
「主さまは優しい人だから大丈夫。じゃあ胡蝶さん、戻りましょうか」
「……約束したわよ。もしお前の言う通りにならなかったら…」
「大丈夫ですってば。ふふ、主さまも疑い深いところがあるけどさすが姉弟ですね」
息吹に笑われてむっとなったが、茣蓙を巻いて脇に抱えた息吹はさっさと屋敷の方へ向かって行ってしまった。
そんな息吹が転ばないようにと猫又が足元に気を付けながら先導していて、主さまの子供を身籠った息吹を羨ましく思いつつも、戸惑いも覚えた。
「主さま、父様、戻りました。一緒にお茶しようよ」
「…胡蝶に何もされなかっただろうな?」
「されてないってば。でも美男美女の姉弟で憧れちゃう。胡蝶さん、帰らずに待ってて下さいね」
――息吹が去ると、残された胡蝶は主さまと晴明にじっと見つめられて憮然としながら縁側に腰掛けた。
そして息吹の言う通りになるならば…という淡い期待を持って、咳払いをすると黙って腕を組んだままの主さまに声をかけた。
「……あの娘は変わっているわね。気を削がれるわ」
「…しとやかに見えても一本芯が通っていて融通が利かない所がある。…茶会もどうせ息吹の案だろう?」
…問うてきた主さまの反応は冷たいものではなく、台所の方を見ている主さまの横顔は笑みさえ浮かべている。
「…お前は変わったわ」
「いい意味に取っておく。息吹と親しくなったのならば茶でも飲んでいけ」
胡蝶が密かにほっとした笑みを見せた。
晴明はそれを見て扇子で顔を隠すと笑みを堪えた。