主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
抹茶を運んできた息吹は、ぽつぽつとではあるが言葉を交わしている主さまと胡蝶の関係が少し変わったことが嬉しくて、晴明の隣に座ると腕に頬ずりをした。
「そなたは摩訶不思議なことをする。あの胡蝶を言い負かしたのだろう?」
「言い負かしてません。喧嘩するよりも仲良くなった方が楽しいでしょ、って提案しただけだよ」
「提案を素直に聞き入れるような女ではないのだが。さすがは私の娘」
晴明と息吹がいちゃいちゃしているように見えていらっとした主さまだったが――胡蝶が喧嘩を仕掛けずに歩み寄ってきたことには驚嘆していた。
幼少期から今まで胡蝶がこうしてたどたどしくはあるが毒も吐かずに話しかけてきたことはなく、息吹と目が合うと恥らうようにつんと顔を逸らして頬を桜色に染める――
姉弟水入らずにしようと考えたのか、息吹が庭に降りて花の水遣りをしようとしていたのすぐに呼び止めて叱った。
「つわりが始まって収まるまであまり動くなと言っている。俺の言ったことをもう忘れたのか?」
「だから!少し動かないと逆に悪いんだってば。父様も何か言って」
「私も十六夜に賛同したいところだが、つわりもまだだ。そなたには妊娠から出産に至るまでを事細かく書いた巻物を贈ってやる」
憮然とした表情で小さく唇を尖らせた主さまをじっと観察していた胡蝶が腰を上げたので、慌てた息吹が縁側に戻って来て着物の袖を握った。
「もう帰っちゃうの?まだ居て下さい。どこに泊まってるの?部屋なら空いてるからここに泊まって行って。ね、主さま、いいでしょ?」
「……お前がいいなら俺は構わない」
「決まり!胡蝶さん、好きなだけ居て下さい。わあ、義姉さんにお屋敷に滞在してもらえるなんて嬉しい!このお屋敷って主さまが百鬼夜行に出ちゃうとしんと静まり返るからお話し相手になって下さい。ね、いいでしょ?」
…完全に息吹に懐かれてしまって動揺した胡蝶だったが――悪い気分ではなかった。
そっと物陰から様子を窺っていた山姫と雪男はどちらかと言えば反対派で息吹の提案にぎょっとしたのだが…息吹に任せておけば問題ないと判断して、口出しをせずに見守ることにした。
「そなたは摩訶不思議なことをする。あの胡蝶を言い負かしたのだろう?」
「言い負かしてません。喧嘩するよりも仲良くなった方が楽しいでしょ、って提案しただけだよ」
「提案を素直に聞き入れるような女ではないのだが。さすがは私の娘」
晴明と息吹がいちゃいちゃしているように見えていらっとした主さまだったが――胡蝶が喧嘩を仕掛けずに歩み寄ってきたことには驚嘆していた。
幼少期から今まで胡蝶がこうしてたどたどしくはあるが毒も吐かずに話しかけてきたことはなく、息吹と目が合うと恥らうようにつんと顔を逸らして頬を桜色に染める――
姉弟水入らずにしようと考えたのか、息吹が庭に降りて花の水遣りをしようとしていたのすぐに呼び止めて叱った。
「つわりが始まって収まるまであまり動くなと言っている。俺の言ったことをもう忘れたのか?」
「だから!少し動かないと逆に悪いんだってば。父様も何か言って」
「私も十六夜に賛同したいところだが、つわりもまだだ。そなたには妊娠から出産に至るまでを事細かく書いた巻物を贈ってやる」
憮然とした表情で小さく唇を尖らせた主さまをじっと観察していた胡蝶が腰を上げたので、慌てた息吹が縁側に戻って来て着物の袖を握った。
「もう帰っちゃうの?まだ居て下さい。どこに泊まってるの?部屋なら空いてるからここに泊まって行って。ね、主さま、いいでしょ?」
「……お前がいいなら俺は構わない」
「決まり!胡蝶さん、好きなだけ居て下さい。わあ、義姉さんにお屋敷に滞在してもらえるなんて嬉しい!このお屋敷って主さまが百鬼夜行に出ちゃうとしんと静まり返るからお話し相手になって下さい。ね、いいでしょ?」
…完全に息吹に懐かれてしまって動揺した胡蝶だったが――悪い気分ではなかった。
そっと物陰から様子を窺っていた山姫と雪男はどちらかと言えば反対派で息吹の提案にぎょっとしたのだが…息吹に任せておけば問題ないと判断して、口出しをせずに見守ることにした。