主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまから屋敷に招き入れられるなど想像してもいなかった胡蝶は、どこかぽかんとした表情でにこにこしている息吹を見つめた。
…少し可愛らしいだけで何の変哲もない女だとたかを括って決めつけていたが…どうやら違うようだ。
妊娠がわかってから息吹には必ず見張りがつき、今も息吹がちょっと動こうものならあちこちから手が伸びる。
「…大事にしているのね」
「息吹は太古より続く鬼族の長子の子を生む者。…そなたは本来長子ではあるが認められなかったのは…」
「正妻の子でもなく力もなかったからでしょう。言われなくてもわかっているわよ。晴明、お前の娘というのはどういうことなの?」
あまり事情を知らない胡蝶は常に上から目線で話すために疎まれて敬遠されがちだが、晴明は主さまとよく似た態度の胡蝶の扱いに慣れているため、気を悪くすることもなく事情を話した。
その間に息吹は庭に降りて花の水遣りをしていて、それを雪男が甲斐甲斐しく付き添って手伝っている。
胡蝶もまた女の勘で息吹と雪男との間に何かしらの感情を読み取っていたが、主さまに目を遣ると主さまはそのことに気付いているようで面白くなさそうな顔をしていたので突っ込まずに黙っておいた。
「十六夜が人の子を拾ったという話は聞いていたわ。少し目を離した間にこんなことになっているとはね」
「まだ童女だった息吹を食うために育てているというので私が平安町に攫って行ったのだ。苦労しつつも蝶よ花よと育てた。だから可愛いだろう?」
親馬鹿丸出しで頬を緩めた表情で息吹を見つめる晴明にも呆れたが――
「息吹、脚を滑らせて転んだら大変だぞ。こっちに戻って来い。床を敷いてやるから寝ていろ」
「やだ。主さま、夕餉のお買い物を雪ちゃんとしてくるから胡蝶さんとお話してて」
「…はあ?お前妙な冗談を言うな。早くこっちに…」
「それに地主神様の祠にも行ってないし。父様、後で連れて行ってね」
「…おい息吹、俺の話をちゃんと聞け」
聞いているのか聞いていないのか――主さまをまるで無視して籐で編んだ籠を抱えた息吹は、番傘を差した雪男と共に屋敷を出て行ってしまった。
「…ぷっ。あははは!お、面白すぎるわね!十六夜…お前が無視されるなんて…!あははははは!」
胡蝶の爆笑が響き渡る。
腹を抱えて笑っている胡蝶につられた主さまもまた、ふっと笑ってしまって晴明に笑われた。
…少し可愛らしいだけで何の変哲もない女だとたかを括って決めつけていたが…どうやら違うようだ。
妊娠がわかってから息吹には必ず見張りがつき、今も息吹がちょっと動こうものならあちこちから手が伸びる。
「…大事にしているのね」
「息吹は太古より続く鬼族の長子の子を生む者。…そなたは本来長子ではあるが認められなかったのは…」
「正妻の子でもなく力もなかったからでしょう。言われなくてもわかっているわよ。晴明、お前の娘というのはどういうことなの?」
あまり事情を知らない胡蝶は常に上から目線で話すために疎まれて敬遠されがちだが、晴明は主さまとよく似た態度の胡蝶の扱いに慣れているため、気を悪くすることもなく事情を話した。
その間に息吹は庭に降りて花の水遣りをしていて、それを雪男が甲斐甲斐しく付き添って手伝っている。
胡蝶もまた女の勘で息吹と雪男との間に何かしらの感情を読み取っていたが、主さまに目を遣ると主さまはそのことに気付いているようで面白くなさそうな顔をしていたので突っ込まずに黙っておいた。
「十六夜が人の子を拾ったという話は聞いていたわ。少し目を離した間にこんなことになっているとはね」
「まだ童女だった息吹を食うために育てているというので私が平安町に攫って行ったのだ。苦労しつつも蝶よ花よと育てた。だから可愛いだろう?」
親馬鹿丸出しで頬を緩めた表情で息吹を見つめる晴明にも呆れたが――
「息吹、脚を滑らせて転んだら大変だぞ。こっちに戻って来い。床を敷いてやるから寝ていろ」
「やだ。主さま、夕餉のお買い物を雪ちゃんとしてくるから胡蝶さんとお話してて」
「…はあ?お前妙な冗談を言うな。早くこっちに…」
「それに地主神様の祠にも行ってないし。父様、後で連れて行ってね」
「…おい息吹、俺の話をちゃんと聞け」
聞いているのか聞いていないのか――主さまをまるで無視して籐で編んだ籠を抱えた息吹は、番傘を差した雪男と共に屋敷を出て行ってしまった。
「…ぷっ。あははは!お、面白すぎるわね!十六夜…お前が無視されるなんて…!あははははは!」
胡蝶の爆笑が響き渡る。
腹を抱えて笑っている胡蝶につられた主さまもまた、ふっと笑ってしまって晴明に笑われた。