主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
客間の畳を箒で掃いている息吹の手から箒を奪い取った主さまは、黙々と掃きつつ息吹に座るように命令した。
「お前は座っていろ。…身体はつらくないか?あまり張り切って俺を心配させるな」
「だから大丈夫だってば。…ねえ主さま、もしかしてこの押し問答を毎日続けるつもりなの?つらかったらちゃんと言うから。だから安心してほしいな」
「…俺だってお前の好きなようにさせたいが、それで子が流れたらどうするんだ。……立ち直れない」
――主さまは赤子だった自分を育ててくれた。
子の扱いなどお手のもので、時々若葉の襁褓を替えてくれることもあるし、意外と子煩悩なのかもしれない――
子が流れたら、と心配する主さまの気持ちもわからないでもなく、息吹は大人しく座椅子に正座して主さまを見上げた。
「うん、じゃあ程々にするから。ありがとう主さま。胡蝶さんとも仲良くしてくれてありがとう」
「……今でこそ大人しいが、機嫌が悪くなると突如牙を剥くかもしれない。警戒を怠るな」
「胡蝶さんは主さまに構ってほしかっただけだってば。お、お義姉さんって呼んだら怒るかな…」
もじもじしている息吹の前に座って肩に手を置いた主さまが口を開きかけた時、庭をしずしずと歩く真っ白な打掛を着た女の妖が横切った。
思わず息吹がびくっとしたので背中に庇うようにして身構えた主さまは、その妖が文の遣り取りを仲介してくれる文車妖妃だとわかると、ぎくっとなって眉を潜める。
「…なんだ、どうした。俺はどこにも文を出してはいないが」
「潭月様から言付かって参りました。…私は主さまの百鬼だとご説明したのですが聞き入れて頂けず」
文車妖妃は元々父の潭月の頃から百鬼だった妖なので無下に断れず、不吉な予感がして両手で差し出されている文を受け取らずにいると、息吹がその文を受け取ってしまった。
「主さま、見てもいい?なんて書いてあるんだろ…」
折り畳まれた文を開いてみた息吹は、またもや一言だけ書かれた流麗な字に満面の笑み。
『今から行く』
主さまの家族が、揃う。
「お前は座っていろ。…身体はつらくないか?あまり張り切って俺を心配させるな」
「だから大丈夫だってば。…ねえ主さま、もしかしてこの押し問答を毎日続けるつもりなの?つらかったらちゃんと言うから。だから安心してほしいな」
「…俺だってお前の好きなようにさせたいが、それで子が流れたらどうするんだ。……立ち直れない」
――主さまは赤子だった自分を育ててくれた。
子の扱いなどお手のもので、時々若葉の襁褓を替えてくれることもあるし、意外と子煩悩なのかもしれない――
子が流れたら、と心配する主さまの気持ちもわからないでもなく、息吹は大人しく座椅子に正座して主さまを見上げた。
「うん、じゃあ程々にするから。ありがとう主さま。胡蝶さんとも仲良くしてくれてありがとう」
「……今でこそ大人しいが、機嫌が悪くなると突如牙を剥くかもしれない。警戒を怠るな」
「胡蝶さんは主さまに構ってほしかっただけだってば。お、お義姉さんって呼んだら怒るかな…」
もじもじしている息吹の前に座って肩に手を置いた主さまが口を開きかけた時、庭をしずしずと歩く真っ白な打掛を着た女の妖が横切った。
思わず息吹がびくっとしたので背中に庇うようにして身構えた主さまは、その妖が文の遣り取りを仲介してくれる文車妖妃だとわかると、ぎくっとなって眉を潜める。
「…なんだ、どうした。俺はどこにも文を出してはいないが」
「潭月様から言付かって参りました。…私は主さまの百鬼だとご説明したのですが聞き入れて頂けず」
文車妖妃は元々父の潭月の頃から百鬼だった妖なので無下に断れず、不吉な予感がして両手で差し出されている文を受け取らずにいると、息吹がその文を受け取ってしまった。
「主さま、見てもいい?なんて書いてあるんだろ…」
折り畳まれた文を開いてみた息吹は、またもや一言だけ書かれた流麗な字に満面の笑み。
『今から行く』
主さまの家族が、揃う。