主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
また潭月と周に会えるとあって嬉しさを爆発させた息吹だったが…その一報を受けた胡蝶の美しい美貌は引き攣り、草履を履いてどこかへ出かけようとしたので息吹が袖を引っ張って引き留めた。
「胡蝶さん!どこに行くの?私もついてく!」
「私はあいつらに会いたくないのよ。離して!」
「いい機会だって言ったでしょ!?潭月さんもお義母様もきっと同じ気持ちだから!ね、主さま。そうでしょっ?」
息吹が引きずられかねない勢いで胡蝶が逃げ出そうとしていたので、主さまはため息をつくと、息吹をひょいと抱き上げて縁側に座らせて胡蝶の前に立った。
胡蝶の瞳はぶるぶると震えて全力で拒絶しているのがわかったが――ひとつだけ伝えなければならないことがある。
「胡蝶、よく聞け」
「いやよ!やっぱり私はここに滞在すべきではないわ。…もう会いに来ないから安心して」
「わだかまりを感じているのはお前だけだ。潭月も母上もお前を疎んでもいなければ恨んでもいない」
「嘘をつかないで!父は力を持たない私にがっかりしただろうし、母は…周様は私が愛人の子だったから疎まないわけがない!」
息吹は姉弟が言い争っている様をまざまざと見せられて緊張していたが…この2人に足りないのは、話し合う時間だ。
自分が口を挟むべきではないとわかっているし、2人共それを望んでいないとわかっているので、晴明と一緒にじっと見つめる。
「…お前は母上の子ではないが、母上はお前を我が子のように育てたじゃないか。お前の本当の親はどうした?お前を見捨てたのは潭月と母上ではなく、本当の親じゃないのか?」
――胡蝶の切れ長で吊り上った瞳がかっと開いた。
激怒しているのが傍で見ていてわかったが、息吹は晴明の手を握って目を逸らさなかった。
「私の母は…矜持が高かったわ。正妻の子ではなく力も持たない子を生んでそれを恥じて…私を置いて……」
ずきん、と胸が痛んだ。
胡蝶は…自分と同じように親に見捨てられて育ったのだと思うと居たたまれなくなった息吹は両手で顔を覆って泣いてしまい、主さまは目の端でそんな息吹を捉えると、仁王立ちして激怒している胡蝶の二の腕を掴んで縁側に座らせた。
「…俺とお前は本当の姉弟のように育ったじゃないか。幼い頃の話だが…俺はお前を本当の姉だと思っている」
「……十六夜…」
わだかまりが、解けてゆく――
「胡蝶さん!どこに行くの?私もついてく!」
「私はあいつらに会いたくないのよ。離して!」
「いい機会だって言ったでしょ!?潭月さんもお義母様もきっと同じ気持ちだから!ね、主さま。そうでしょっ?」
息吹が引きずられかねない勢いで胡蝶が逃げ出そうとしていたので、主さまはため息をつくと、息吹をひょいと抱き上げて縁側に座らせて胡蝶の前に立った。
胡蝶の瞳はぶるぶると震えて全力で拒絶しているのがわかったが――ひとつだけ伝えなければならないことがある。
「胡蝶、よく聞け」
「いやよ!やっぱり私はここに滞在すべきではないわ。…もう会いに来ないから安心して」
「わだかまりを感じているのはお前だけだ。潭月も母上もお前を疎んでもいなければ恨んでもいない」
「嘘をつかないで!父は力を持たない私にがっかりしただろうし、母は…周様は私が愛人の子だったから疎まないわけがない!」
息吹は姉弟が言い争っている様をまざまざと見せられて緊張していたが…この2人に足りないのは、話し合う時間だ。
自分が口を挟むべきではないとわかっているし、2人共それを望んでいないとわかっているので、晴明と一緒にじっと見つめる。
「…お前は母上の子ではないが、母上はお前を我が子のように育てたじゃないか。お前の本当の親はどうした?お前を見捨てたのは潭月と母上ではなく、本当の親じゃないのか?」
――胡蝶の切れ長で吊り上った瞳がかっと開いた。
激怒しているのが傍で見ていてわかったが、息吹は晴明の手を握って目を逸らさなかった。
「私の母は…矜持が高かったわ。正妻の子ではなく力も持たない子を生んでそれを恥じて…私を置いて……」
ずきん、と胸が痛んだ。
胡蝶は…自分と同じように親に見捨てられて育ったのだと思うと居たたまれなくなった息吹は両手で顔を覆って泣いてしまい、主さまは目の端でそんな息吹を捉えると、仁王立ちして激怒している胡蝶の二の腕を掴んで縁側に座らせた。
「…俺とお前は本当の姉弟のように育ったじゃないか。幼い頃の話だが…俺はお前を本当の姉だと思っている」
「……十六夜…」
わだかまりが、解けてゆく――