主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
人の料理を好んで食べたことがなかった胡蝶は、息吹が真心を込めて作ってくれた料理に舌鼓を打った。
…今の所、非の打ち所のない良妻賢母だ。
生まれてくる子もきっと愛して可愛がって、慈しんで優しい子へと成長することだろう。
「胡蝶さんどうですか、美味しいですか?」
「そうね、でも人を食った方が美味しいわ」
少し脅したつもりだったのだが、息吹はにこっと笑って非難してこなかった。
幼い頃から妖に囲まれて育っているので、彼らが人を好んで食べたりすることについては非難するつもりがないのだろう。
庭に集まり始めた百鬼たちは息吹に次々と手土産を持って来るし、息吹の関心をなんとか引こうと皆躍起になっている。
主さまはその光景は日常茶飯事なのかあまり不機嫌になることはなかったが…
「ねえ胡蝶さん、今日は一緒のお布団で寝ませんか?」
「ええ、いいけど…」
「…行って来る」
主さまが突然腰を上げたので息吹が見上げると、小さく手を振って笑いかけた。
「主さま行ってらっしゃい。気を付けてね」
「……こいつは寝相が悪い。せいぜい蹴飛ばされないように気を付けるんだな」
――親切心からなのか、負け惜しみからなのか…
どっちとも取れる主さまの忠告に噴き出してしまった胡蝶と、同じように肩を揺らしながら扇子で顔を隠している晴明を睨みつけた主さまが鼻を鳴らして屋敷を去ると、息吹は首を傾げて米を口にした。
「変なの。あ、お布団敷いてこなくちゃ。ちょっと待ってて下さいね」
「いいって息吹。俺がやっとくから重たいもの持つなよ」
「ありがとう雪ちゃん。後で一緒にお団子食べようね」
雪男は心を許していないのか、部屋の隅に座って胡蝶をずっと監視している様子に息吹が唇を尖らせる。
「雪ちゃん。胡蝶さんはお客様なんだからそんな目で見ないの」
「お前忘れてるみたいだけど、胡蝶は主さまとお前を離縁させるつもりだったんだからな。なに敵と仲良くなってんだよ」
「敵じゃないもん。お、お…義姉さんだもん」
ぽっと頬を桜色に染めてお義姉さんと呼んだ息吹に目を丸くした胡蝶は、なんだかくすぐったくなってぷいっと顔を逸らして庭を眺めるふりをした。
「その態度、十六夜とよく似ている。血の繋がりは侮れぬな」
「…うるさいわね」
否定はしなかった。
…今の所、非の打ち所のない良妻賢母だ。
生まれてくる子もきっと愛して可愛がって、慈しんで優しい子へと成長することだろう。
「胡蝶さんどうですか、美味しいですか?」
「そうね、でも人を食った方が美味しいわ」
少し脅したつもりだったのだが、息吹はにこっと笑って非難してこなかった。
幼い頃から妖に囲まれて育っているので、彼らが人を好んで食べたりすることについては非難するつもりがないのだろう。
庭に集まり始めた百鬼たちは息吹に次々と手土産を持って来るし、息吹の関心をなんとか引こうと皆躍起になっている。
主さまはその光景は日常茶飯事なのかあまり不機嫌になることはなかったが…
「ねえ胡蝶さん、今日は一緒のお布団で寝ませんか?」
「ええ、いいけど…」
「…行って来る」
主さまが突然腰を上げたので息吹が見上げると、小さく手を振って笑いかけた。
「主さま行ってらっしゃい。気を付けてね」
「……こいつは寝相が悪い。せいぜい蹴飛ばされないように気を付けるんだな」
――親切心からなのか、負け惜しみからなのか…
どっちとも取れる主さまの忠告に噴き出してしまった胡蝶と、同じように肩を揺らしながら扇子で顔を隠している晴明を睨みつけた主さまが鼻を鳴らして屋敷を去ると、息吹は首を傾げて米を口にした。
「変なの。あ、お布団敷いてこなくちゃ。ちょっと待ってて下さいね」
「いいって息吹。俺がやっとくから重たいもの持つなよ」
「ありがとう雪ちゃん。後で一緒にお団子食べようね」
雪男は心を許していないのか、部屋の隅に座って胡蝶をずっと監視している様子に息吹が唇を尖らせる。
「雪ちゃん。胡蝶さんはお客様なんだからそんな目で見ないの」
「お前忘れてるみたいだけど、胡蝶は主さまとお前を離縁させるつもりだったんだからな。なに敵と仲良くなってんだよ」
「敵じゃないもん。お、お…義姉さんだもん」
ぽっと頬を桜色に染めてお義姉さんと呼んだ息吹に目を丸くした胡蝶は、なんだかくすぐったくなってぷいっと顔を逸らして庭を眺めるふりをした。
「その態度、十六夜とよく似ている。血の繋がりは侮れぬな」
「…うるさいわね」
否定はしなかった。