主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまが屋敷に帰り着いた時、縁側では潭月と周、そしてぎこちなくもすぐ傍に胡蝶が座っていた。

ちなみに胡蝶は真ん中で、ふわりと庭に降りた主さまはその場で珍しい光景を眺めてみる。


「おお十六夜。さあ父の胸に飛び込んで来い」


「気持ち悪い。…息吹は?」


「主さまお帰りなさい。私今起きたところで……潭月さん!お義母様!」


今まさに起きましたという態で登場した息吹は、櫛で髪を梳かしながら囲炉裏の近くに座って耳の赤くなっている胡蝶を見て笑った。

耳がすぐ赤くなるのは主さまと同じ。

さらに好感を覚えて微笑ましく眺めていると、にじり寄る潭月から逃れて来た主さまが隣りにすわって腹に手をあててきた。


「…問題ないか?」


「うん、全然。昨晩は胡蝶さんと一緒に寝たんだよ。今日は胡蝶さんとお義母様と3人で寝たいな」


「わたくしも賛成じゃ」


「…母上が賛成なら私も…」


目を見張った主さまに向けて空になった湯呑を投げつけると、主さまは華麗に伸ばした手で受け止めてずばっと問題に斬り込んだ。


「俺が戻って来るまでの間にすでに和解したのか?」


「和解も何も、俺と周は胡蝶に対してわだかまりなど無いのだが」


「力が無いと無下にしてきた娘にわだかまりが無いと言うのか?」


息吹がはっとして主さまの袖を引いたが、主さまはこの問題をうやむやにする気はなく、青ざめた胡蝶を支持して続けた。


「母上は実の娘のように胡蝶を愛していたことを知っているが、お前はどうだ。落胆しなかったか?愛していたか?」


詰問したが潭月は落ち着いたままで湯呑を口に運ぶとふぅ、と息をついた。

むかっときた主さまがさらに問い詰めようとした時――周がぱちんと扇子を閉じて切れ長の美しい瞳で主さまを見つめる。


「こ奴は変わり者じゃ。娘を愛してはいたが不器用故に愛し方を間違えた。胡蝶に憎まれれば存在を忘れられることもなく、また殺意を抱くまでに至れば会いに来るだろうと考えておった馬鹿者じゃ」


「変わり者だと馬鹿者だの酷いじゃないか。言っておくが愛していない時期などなかったぞ。伝え方は間違っていたかもしれないが、百鬼夜行の主になれば危険が伴う。女ならなおさらだ。力が無くてほっとしたものだ」


――本音を聞けた胡蝶は、氷のように凍り付いていた感情が溶けてゆくのを感じた。
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