主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
周は実の子ではない自分を不器用ながらも愛してくれたと思う。

贔屓することなく厳しく育てて、むしろ主さまには厳しくしていたとも思う。

本当の父母ではないという念が拭いきれなくて、成人した時に置手紙もなく高千穂の家を飛び出してから、ずっと逆恨みし続けた。

そして跡目を継いだ主さまをも逆恨みして、暴言を吐き、傷つけ、迷惑をかけ続けてきた。


だがそれももう終わりだと思うと、これ以上嫌われずに済むし、これ以上自分を傷つけながら全てを責め立てる必要はない。


「じゃあ主さま、私今日こそ地主神様のところに行って来るから」


「待て、俺も行くが少し眠らせてくれ」


「私ひとりで行くからいいってば」


「駄目だ」


押し問答している主さまと息吹の会話を聞いて顔を見合わせた潭月と周は、この屋敷に住んでいた時、気が向いた時に時々訪れていた裏山の祠を思い出した。


「ああ、よくあんなものを見つけたな」


「主さまったらずっとお参りしてなかったんですよ。私が綺麗にして毎日お参りしてたら、この子を授かったんです。だからこれからも続けなくちゃ」


息吹が妊娠したと聞いてすぐさま高千穂を飛び出してやって来た潭月と周は、腹を撫でている息吹の腹部をじっと見つめた。

薬師ではないので判断しかねたが、屋敷に泊まっていた晴明が顔を出して部屋の隅に座ると頷いたので、それを信用して笑みを浮かべた。


「俺たちにようやく孫が!周よ、俺たちの時は妊娠するまで時間がかかったものだが…新婚早々授かるとはな」


「わたくしとの間にはなかなか子に恵まれなかったが…胡蝶の母との間にはすぐできたと聞いた。真に腹の立つ奴じゃ、さもわたくしに責任があるようではないか」


――なんだか雲行きが怪しくなり、一気に部屋の温度が下がった気がした主さまは、眠気も吹っ飛んで息吹を急かして草履を履かせると、裏山を指す。


「このままじゃ俺たちにもとばっちりが来る。行くぞ」


「う、うん」


会ったばかりでまだまともに言葉も交わしていなかったが、しばらく滞在してもらえると踏んで張り切った息吹は、主さまに肩を抱かれて地主神の祠を目指した。
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