主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまの宣言通り抱き上げられたまま裏山を降りて庭に連れ出されると、そこにはいつもと違う光景があった。

この時間帯は百鬼夜行が終わって陽が上り、それぞれのねぐらに戻って眠っているはずの百鬼たちがぞろぞろと集結していたのだ。

それもぬらりひょんや土蜘蛛など大物の妖ばかりで、大抵は緊張しきった様子で正座をしたり背筋を伸ばしてゆったり構えている潭月を見つめていた。


「先代、息吹の懐妊祝いにいらっしゃったんで?」


「ああ、まあそんなところだ。しばらく世話になるぞ」


「……ならなくていい。お前は早めに帰れ」


主さまが現れると二重の緊張感に襲われた百鬼たちはごくりと喉を鳴らし、もがいてなんとか腕から下ろしてもらった息吹は庭に立って花を眺めていた胡蝶の腕に抱き着いて顔を隠す。


「主さまが嫌がらせするの。私のかたき討ちをして下さいっ」


「そんなのお手のものよ。十六夜は痛いのが好きかしら、それとも精神的な苦痛の方がいいのかしら」


「……」


とんでもない敵を作ってしまった主さまは息吹を呼び寄せようと手を差し伸べたが、息吹は首を振って頑として拒否。

そんな日常的な風景にようやく場が和んだ百鬼たちは、わいのわいのと主さまと息吹が普段こうして言い合いをしていることを潭月に告げ口した。


「主さまは毎日息吹を追いかけ回して息吹は逃げ回ってるんでさあ。あれ?先代も確かそんなことしてたような…」


「俺たちは親子だからな、そういうおかしなところは似るんだ。周もこれで以前は息吹のように可愛らしいところが…」


「黙れ。その口2度と開かぬよう針と糸で縫い合わせてやるぞ」


ぱちんと扇子を閉じて切れ味鋭い眼差しで睨む周をさして怖がった風でもなく笑った潭月だったが…百鬼たちは萎縮しまくって再び緊張。

息吹は胡蝶と共に縁側から屋敷に上がって主さまの視界から消えようとしたので、後を追いかけて来た主さまに呼び止められた。


「どこへ行く」


「貝合わせをして遊んでもらうの。主さまは最近遊んでくれないから」


「…そんな女がやる遊びをするものか。餓鬼が」


つい憎まれ口を叩いてしまう主さまだったが、息吹はつんと顔を逸らしてまた胡蝶の腕に抱き着いて主さまをいらっとさせた。


「じゃあもう主さまとは遊ばないから」


「……待て、そういう意味では…」


「邪魔よ、去って」


胡蝶の憎まれ口に閉口。
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