主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
夜は百鬼夜行に出るためそれ以外の時間は極力息吹と一緒に過ごしたいのに…

本音がつい顔に出てしまっていた主さまの肩を馴れ馴れしく抱いた潭月は、すれ違う人々が驚いて道を譲る光景を懐かしく思いながら懐かしい町を眺めた。


「ここは何も変わっていないな。まあ変わるはずがないか。ここは外界とは隔てられた町だ」


「…俺は未だに同胞を殺すことに抵抗はある。共存とまでは望まないが、もっとできることがあるはずだ」


「お前真面目すぎるぞ。もう少し肩の力を抜け。人に悪さをするからお前が成敗しているんだろうが。古来より決められたしきたりなのだ、悩んでも仕方のないことだからな」


――最初はそうやって真面目な話をしていたのだが、百鬼もそうだが幽玄町の住人たちも先代である潭月が現在の主である主さまと共に町を歩くという有り得ない光景に皆がぽかんとした表情をしている。


「…そう言えばお前はよく人を食っていたんだったな」


「人聞きの悪い言い方をするな。むやみやたらと食っていたわけではないぞ。お前が以前していたように、時々女を食っていただけだ」


「……俺はもう食わない。時々息吹を齧るだけで満足だ」


「いつか腹が減る時が来るかもしれないぞ。その時はどうする?」


「……」


主さまが不快げに眉を潜めたので、本来息子が愛しすぎて撫で回していたい潭月は少し焦ってぽんぽんと肩を叩いた。


「冗談だ冗談。しかしお前がとうとう父となるのか。よく晴明の妨害に耐えられたものだな」


「晴明は人と妖の間に立つ者。こちらばかり構ってはいられないだろうが。隙を突く位いくらでもできる」


ぶらぶら歩いているうちに幽玄橋に着くと、それまで仁王立ちしていた赤鬼と青鬼が恐縮して膝を折って頭を下げた。


「こ、これは先代に主さま…!」


「まあそう萎縮するな。ここは相変わらずか?」


「はあ、ここを通ろうとする者は居ません。通ったのは息吹と若葉位なもんで」


「若葉?ああ、あの銀が育てている子か。しかし珍しい娘たちだ。よもやお前の妻になるとはな。食うつもりだったんだろう?」


潭月が涼しげな顔で主さまの急所を突くと、主さまはふんと鼻を鳴らして肩に乗っていた潭月の手を払いのけた。


「…予定は変わるものだ」
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