主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
つわりが治まった息吹は、最近毎日縁側に座って何かを縫っていた。

何かあっては大変だと相変わらず過保護な主さまは、睡眠時間を削ってまで息吹の傍から離れることはなく、だんだん形になってきた編み物の正体を知ってそれを指でつまんでみる。


「…これは…なんだ?」


「これはね、産着だよ。潭月さんが沢山贈ってくれたけど、赤ちゃんってすぐ大きくなるし、頂いたものはこの子が大きくなってから使おうと思って」


「なるほど」


「若葉がすぐ大きくなったでしょ?だからちょっとずつ大きさが違うのを縫ってるの。主さまもやってみる?」


「…俺は不器用だからそんなものは作れない」


「そうだね、主さま不器用だもんね。でもそんな主さまも可愛いよ」


可愛いと言われて思いきり照れてしまった主さまが座布団を被って寝転がったので笑っていると、遠くの空に小さな黒い点が見えた。

それは徐々に大きくなり、正体を知った息吹は座布団を叩いて主さまに知らせた。


「主さま、天狗さんが来たよ。まだ昼間なのにどうしたのかなあ?」


「天狗?…息吹、お前は違う部屋でそれの続きをやれ。雪男」


「はいよ。息吹、客間でやろうぜ」


「?うん、わかった。…主さま…大丈夫?」


「何がだ?報告を受けるだけだ。心配するな」


じっと息吹に見つめられた主さまが少し口角を上げて笑みを見せると、息吹も笑い返して雪男と共に大広間を出て行った。

それと同時に上空で旋回していた赤鼻の天狗が下駄音を響かせて主さまの前で舞い降りたが――険しい顔つきの天狗に主さまの表情も引き締まる。


「…良い情報じゃないようだな」


「気は緩めておりませんでしたが…北の方で動きがありまする」


「北?動きとはなんだ」


天狗は頭巾を取って庭にどっかり座ると、重たい息をついて何度も首を振った。


「……あの鬼っ子めが再び」


「…………酒呑童子か」


「はい。鬼を中心に手勢を集めており、徐々に集結中。村を襲っては人を根こそぎ食い尽くしては移動しているとか」


「懲りていないというわけだな。またやり合うつもりでいるということか?」


――酒呑童子とは何度もやりあった過去がある。

その度に多くの犠牲が出て、幽玄町に住む人々にも死者が出た。


「殺さねば…わからないんだな?」


今は…かけがえのない存在が傍に在る。

絶対に守らなければならない存在が、ここに。
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