主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
百鬼夜行を率いる主さまの耳元でごうごうと風の音が鳴る。

天狗の情報を元に北を重点的に調べるべきだと話し合った結果、山奥を中心に気配と目を凝らして酒呑童子一派を捜索していた。

連中が襲ったという村にも行ってみたが――骨ひとつ落ちていない。

ただ爪痕や足跡の痕跡、そして大量の血痕…


その村で惨劇が繰り広げられたのは、言うまでもなく明白だった。


「…意地汚い真似をする」


「やけに荒ぶっているようだが、俺がしばらくの間この地を離れている間に酒呑童子と最近やり合ったのか?」


「やり合っていない。銀…俺とお前がやり合った時は、百鬼対お前だった。だが酒呑童子は違う。手勢を集めて数で勝負しようとしている。何故だ」


百鬼夜行の列は強い順で構成されている。

主さまの背中を守るのは銀やぬらりひょんたちで、銀はいつものように馴れ馴れしく隣に並ぶと、ふかふかの長い尻尾で主さまの手をくすぐった。


「何かに触発されたとか。例えば…お前は妻を娶った。そうなれば、子が産まれる。あいつは確か百鬼夜行を奪いたがっていたな。子が継げば、あいつはまた機会を逃す。そういうことじゃないか?」


主さまの脚が止まった。

今まで数度やり合い、その都度瀕死の状態にまで追い込んできたが――今回は同情は不要だと感じていた。

険しい表情になった主さまの脇にどすっと肘をめり込ませた銀は、からから笑いながら主さまの肩を抱いて再び百鬼夜行を続行する。


「お前にも俺にも今や大切なものができた。お前は血眼になってあいつを捜すべきだし、殺すべきだ」


「…わかっている。今後は酒呑童子を見つけ出すまで北を重点的に捜す。見つけ次第…殲滅だ」


「わかった。おいお前たち、今の十六夜の言葉をそのまま後列にまで一言一句違えず知らせろ」


主さまの宣言がさざ波のように百鬼夜行の列に広がっていく。

彼らにもまた、酒呑童子がもしかしたら息吹や主さまとの子をも狙っているのではと憶測が飛び交い、いつにも増して気を引き締めていた。


「今回は先手必勝でいく。何度歯向かってこようとも諦めないあの小僧を…やる」


主さまの切れ長の瞳がぎらりと光った。
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