主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
何度も振り返りながら前を行く息吹にしっとりと微笑を返していた潭月だったが――10人は一堂に会せそうなほどに大きな食卓の前に座った主さまがすでにつまみ食いを始めている様子にまた目を丸くした。


「十六夜よ、はしたないぞ。家族が揃ってからにしろ」


「主さまったら。あの…お義母様は…」


「もうすぐ来る。ちなみに俺はお義父様などと堅苦しく呼ばれたくない。潭月さん、と可愛らしく呼んでくれ」


主さまが薄目で睨んだが、それを爽やかなまでに無視した潭月は、主さまの隣に座った息吹の正面に座って頬杖を突くと、不躾にじろじろ眺め回した。

そうなると面白くない主さまだったが、潭月と諍いを起こして空気を悪くしたくなかったのでぐっと堪えて漬物に手を伸ばしたまたつまみ食いをする。


「ほう…これは美味なるものが沢山ある」


遅れてやって来た周は先ほど着ていた赤い着物ではなく、真っ赤な帯と濃い紫色の着物姿で、こんなに美しい女性を見たことがない息吹はうっとりした瞳で周を見つめた。


「主さまのご両親ってすっごい美男美女なんだね…。なんか私気おくれしちゃう…」


「お前と母も俺から言わせたら大差ないぞ」


「え?今私とお義母様を比べたの!?ひ、贔屓目にしても比べ物になんないよ!主さまの馬鹿っ」


照れて頬を赤くした息吹につられた主さまが無言のまま耳を赤くすると、周は主さまの正面に座って居住まいを正した。

そうすると息吹も気持ち改まって背筋を伸ばし、周は綺麗になった台所の方を指した。


「そなたが綺麗にしてくれたのか」


「お台所勝手に使わせてもらいました。あとちょっとお片づけも勝手に。使い勝手が悪かったらすぐ元に戻し…」


「わたくしはここ100年もの間台所に立っていない。少し覗いてみたが…見違えるほど綺麗になったものじゃ。この料理も見た目も素晴らしい。十六夜よ、なかなかできた妻を貰いましたね」


「はい。俺にはもったいないほどで…………お、おい、こっちを見るな」


「だって主さまが私を誉めてくれてるんだもん!聞き逃さないようにしなくちゃ!」


瞳をきらきら輝かせて熱視線を浴びせてくる息吹に腕を掴まれて逃げようがなくなると、潭月が楽しそうに笑い声を上げた。


「では皆で食そう。どうだ周よ、俺のために料理を作る気には…」


「黙れ。黙って食せ」


静かに一喝した周の迫力だったが、息吹と目が合うと主さまによく似たやわらかい笑みを掃き、また息吹をぽうっとさせた。
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