主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
白狐の爪には猛毒の効果がある。
晴明は半妖だが、葛の葉から確かな血を受け継いでいた。
また銀は純血の九尾の白狐であり、主さまと言えども引っ掻かれただけで命を落としかねない代物だ。
今すぐ牛車の中の息吹を追って抱きしめたいのに、晴明と銀は揃って主さまの前に立ちはだかり、鈍色に光る爪を主さまに見せつけた。
「そなたの体内で回っている毒が早いか、私の爪の毒が早いか…どちらかな?」
「晴明…!俺は間違っていたし、後悔している!息吹を悲しませて…笑わせるより泣かせた数の方が多い!だが息吹を裏切ったりしない!晴明、俺を信じないのか!?」
「私は娘を信じている。そなたを殺せばしばらくは息吹に恨まれようが…長い生だ、いつかはそなたと培った思い出も消え果てて無くなるだろう。十六夜…思い出とは新たな思い出に塗り替えられて消えてゆくものだ」
「違う!俺は息吹と出会って変わった!息吹との思い出は消えない!これからも共に作っていくんだ!晴明…俺は息吹を生涯大切にしようと誓ったんだ!」
「ほう、面白いことを言う。では何故息吹は泣いているのだ?…そなたは、口だけの、男だ!」
晴明の瞳が金色に光ったのを見た主さまは、瞬時に天叢雲を抜いて襲いかかってきた晴明の爪を受け止めた。
火花が散ると同時に本気で自分を殺そうとしているのがわかったが――心身ともに疲れ果てている主さまは、押し負けながらじりじりと後退する。
全力で向かってくる相手には、全力を懸けなければ倒せない。
…幼い晴明を引き取って育てた主さまにとっては、晴明とはじめて刃を交えて侮ってはいけない相手だとわかりつつも、どうしても情愛が先に立つ。
「せい、めい…!やめろ…!」
「…私の娘は今も泣いている。泣いているのだ、十六夜。気丈に離縁を口にしたが、そなたを想って泣いている。それにそなたは…私がここで命を削らずとも、いずれ死ぬ。あの女の肉を食ったことによって、死ぬのだ」
主さまを魅了するほどに最高に美味い女なのだろうが、妖を殺せるほどの効力をも備え持つ。
体内に溜まってゆく毒を見切った晴明は、腕の力をふっと抜いて油断した主さまがつんのめって前のめりになった瞬間、背後に回り込んで首に爪をかけた。
「何度殺しても殺し足りぬ。だが…そなたは私の孫の父。半殺しで、済ませてやる」
「う…っ!」
晴明の爪が首にじわりと食い込む。
椿姫の毒と晴明の毒が主さまの体内を駆け巡り、吐血した主さまを晴明が静かに抱き留めた。
晴明は半妖だが、葛の葉から確かな血を受け継いでいた。
また銀は純血の九尾の白狐であり、主さまと言えども引っ掻かれただけで命を落としかねない代物だ。
今すぐ牛車の中の息吹を追って抱きしめたいのに、晴明と銀は揃って主さまの前に立ちはだかり、鈍色に光る爪を主さまに見せつけた。
「そなたの体内で回っている毒が早いか、私の爪の毒が早いか…どちらかな?」
「晴明…!俺は間違っていたし、後悔している!息吹を悲しませて…笑わせるより泣かせた数の方が多い!だが息吹を裏切ったりしない!晴明、俺を信じないのか!?」
「私は娘を信じている。そなたを殺せばしばらくは息吹に恨まれようが…長い生だ、いつかはそなたと培った思い出も消え果てて無くなるだろう。十六夜…思い出とは新たな思い出に塗り替えられて消えてゆくものだ」
「違う!俺は息吹と出会って変わった!息吹との思い出は消えない!これからも共に作っていくんだ!晴明…俺は息吹を生涯大切にしようと誓ったんだ!」
「ほう、面白いことを言う。では何故息吹は泣いているのだ?…そなたは、口だけの、男だ!」
晴明の瞳が金色に光ったのを見た主さまは、瞬時に天叢雲を抜いて襲いかかってきた晴明の爪を受け止めた。
火花が散ると同時に本気で自分を殺そうとしているのがわかったが――心身ともに疲れ果てている主さまは、押し負けながらじりじりと後退する。
全力で向かってくる相手には、全力を懸けなければ倒せない。
…幼い晴明を引き取って育てた主さまにとっては、晴明とはじめて刃を交えて侮ってはいけない相手だとわかりつつも、どうしても情愛が先に立つ。
「せい、めい…!やめろ…!」
「…私の娘は今も泣いている。泣いているのだ、十六夜。気丈に離縁を口にしたが、そなたを想って泣いている。それにそなたは…私がここで命を削らずとも、いずれ死ぬ。あの女の肉を食ったことによって、死ぬのだ」
主さまを魅了するほどに最高に美味い女なのだろうが、妖を殺せるほどの効力をも備え持つ。
体内に溜まってゆく毒を見切った晴明は、腕の力をふっと抜いて油断した主さまがつんのめって前のめりになった瞬間、背後に回り込んで首に爪をかけた。
「何度殺しても殺し足りぬ。だが…そなたは私の孫の父。半殺しで、済ませてやる」
「う…っ!」
晴明の爪が首にじわりと食い込む。
椿姫の毒と晴明の毒が主さまの体内を駆け巡り、吐血した主さまを晴明が静かに抱き留めた。