主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまが着ている濃紺の着物の上半身を脱がせた晴明は、その細い身体のどこに隠し持っていたのかというほどに長い針のようなものを十数本取り出して紐でたすき上げをすると、主さまの心臓の上に掌を置いた。
仮死状態にしてあるので鼓動はないが、晴明は主さまの耳元に顔を近付けてこそりと囁く。
「これよりそなたの体内から椿姫を食らった血肉を抽出する。血反吐を吐くつらく苦しいものだ。…それをそなたの罰として、許してやる」
いやな匂いはすでに蔵の中全体に充満していたが、晴明は取り乱すこともなく、主さまの背中に手を入れて半身抱き起こすと、首の後ろに針をとんと刺した。
途端――主さまが大量の吐血をして息を吹き返すと、晴明は再び主さまを横にさせて鼻で笑う。
「起きたか。日がな1ケ月もの間毎朝毎晩椿姫を食らい続けていたようだな。そなたの体内に蓄積されている毒の量が半端ではない」
「せい、めい……っ!息吹、は……」
「息吹の名を口にするなとは言わぬが、今は銀が傍についているはずだ。そなたは己の命を案じた方がいいぞ。このままでは本当に死んでしまうからな」
「息吹……!俺は、息吹を、裏切って……」
「私を再び怒らせたいのか?これよりそなたの治療を開始する。そなたの体力と気力が持てば、毒を体内から抜くことができる。それとも…このまま死にたいか?そなたが死んだ後は私と銀が百鬼夜行を継いでやってもいいが」
主さまの目の色が変わった。
いくつもの青白い鬼火が蝋燭の炎よりも明るく蔵の中を照らし出し、恐れた椿姫が顔を両手で覆って身を震わせる。
主さまは晴明の腕を掴んで痕がつくほど握り締めながら、ぎらつく瞳で牙を剥き出した。
「晴明…やれ…!俺は、生きて…生きて…息吹を取り戻す…!腹の中に、俺の子が…!息吹を独りには、もうさせない…!」
「…1ケ月も放置しておいてよく言えたものだな。まあよい、今に話す気力や体力も無くなるだろう。…参る」
針のようなものは上部に穴が空いてあり、先端は文字の如く針のように尖っている。
晴明は迷いなくそれを主さまの心臓に突き刺さらない程度に加減して深く刺すと、穴の空いた上部から紫色の煙のようなものが噴き出した。
それと同時に再び主さまが吐血して、すでに血と同化してしまっている椿姫の血肉を吐き出す。
「そなたの体内に巡る血のほとんどが椿姫の毒に侵されている。つらく苦しい道のりになるぞ」
「そんなことは、どうでもいい…!早く、やれ…!」
歯を食いしばり、激痛に耐えながら声を上げる主さま。
瞼に焼き付いている息吹の泣き顔を払しょくするようにぎゅっと瞳を閉じて、己を呪った。
仮死状態にしてあるので鼓動はないが、晴明は主さまの耳元に顔を近付けてこそりと囁く。
「これよりそなたの体内から椿姫を食らった血肉を抽出する。血反吐を吐くつらく苦しいものだ。…それをそなたの罰として、許してやる」
いやな匂いはすでに蔵の中全体に充満していたが、晴明は取り乱すこともなく、主さまの背中に手を入れて半身抱き起こすと、首の後ろに針をとんと刺した。
途端――主さまが大量の吐血をして息を吹き返すと、晴明は再び主さまを横にさせて鼻で笑う。
「起きたか。日がな1ケ月もの間毎朝毎晩椿姫を食らい続けていたようだな。そなたの体内に蓄積されている毒の量が半端ではない」
「せい、めい……っ!息吹、は……」
「息吹の名を口にするなとは言わぬが、今は銀が傍についているはずだ。そなたは己の命を案じた方がいいぞ。このままでは本当に死んでしまうからな」
「息吹……!俺は、息吹を、裏切って……」
「私を再び怒らせたいのか?これよりそなたの治療を開始する。そなたの体力と気力が持てば、毒を体内から抜くことができる。それとも…このまま死にたいか?そなたが死んだ後は私と銀が百鬼夜行を継いでやってもいいが」
主さまの目の色が変わった。
いくつもの青白い鬼火が蝋燭の炎よりも明るく蔵の中を照らし出し、恐れた椿姫が顔を両手で覆って身を震わせる。
主さまは晴明の腕を掴んで痕がつくほど握り締めながら、ぎらつく瞳で牙を剥き出した。
「晴明…やれ…!俺は、生きて…生きて…息吹を取り戻す…!腹の中に、俺の子が…!息吹を独りには、もうさせない…!」
「…1ケ月も放置しておいてよく言えたものだな。まあよい、今に話す気力や体力も無くなるだろう。…参る」
針のようなものは上部に穴が空いてあり、先端は文字の如く針のように尖っている。
晴明は迷いなくそれを主さまの心臓に突き刺さらない程度に加減して深く刺すと、穴の空いた上部から紫色の煙のようなものが噴き出した。
それと同時に再び主さまが吐血して、すでに血と同化してしまっている椿姫の血肉を吐き出す。
「そなたの体内に巡る血のほとんどが椿姫の毒に侵されている。つらく苦しい道のりになるぞ」
「そんなことは、どうでもいい…!早く、やれ…!」
歯を食いしばり、激痛に耐えながら声を上げる主さま。
瞼に焼き付いている息吹の泣き顔を払しょくするようにぎゅっと瞳を閉じて、己を呪った。