主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
晴明が留守の間は銀が傍に居てくれる。

誰かに守られてばかりで申し訳なかったが、子を無事に出産するまでは厚意にあやかることにした息吹は、銀と若葉の離乳食と自分用の朝餉を作って囲炉裏の前に並べた。


「銀さんも一緒に食べてくれるんだよね?無理に付き合ってくれなくてもいいよ?」


「いや、俺も食う。若葉は人だし、今後も俺が食わせてやらなければならないだろう?まあ俺というか…お前に」


「ふふっ、もう銀さんったら…。でも大切なことだと思うよ。同じものを食べて、一緒に寝て…当たり前のことだけど、してあげた方がいいから」


ここ1ケ月の間はろくに食べ物が喉を通らずに皆を心配させてしまっていたが、今は腹の中の子のために無理矢理にでも食べなければならないとわかっている。

頻繁に腹の中から蹴られる度に“何か食べたい”と合図をされているようで、ゆっくり米を噛んでおかわりをした息吹は、廊下や襖を眺めてため息をついた。


「お掃除したいんだけど…」


「駄目だぞ、晴明が留守の時に余計なことをしないでくれ。お前に何かあったら俺があいつにやり込められるんだからな」


「…父様…ちゃんとご飯食べてるかな」


ぽつりと呟いた息吹は、勝手に瞳が潤んできて慌てて天井を見上げると、膝に上がってきた若葉の顔をじっと見つめて笑いかけた。

若葉はどちらかと言えば表情が乏しくてあまり笑うことはないが、へにゃっと笑って抱き着いてきたので愛情が湧いて背中を叩いてげっぷを出してやる。


「若葉は美人さんになりそう。銀さん絶対将来はらはらしちゃうよ」


「人の成長は早いし、すぐ嫁に行ってしまうんだろうな。寂しいだろうが別れは必然だ。こいつを幸せにできる男だと見込んだら喜んで嫁に出してやるとも」


「この子のひとつ年上のお姉さんになるんだよね。若葉、沢山遊び相手になってあげてね」


息吹としては、半ば若葉は引き取ったようなものなのでここで一緒に暮らすのが当たり前だと思っている。

現に銀も否定しないので、銀もここに半ば住むような形になるのだろうと思ったら安心して、ふたりで若葉をあやしながら疑問を口にした。


「銀さんは…百鬼の契約を結んだままなんだよね?…これからも?」


「当面はそのつもりだが。だが十六夜の話はお前にはしない」


気を遣ってくれた銀にもたれ掛った息吹は、また腹の中から蹴ってきた我が子を撫でるようにして腹を撫でて、主さまの屋敷とほぼ同じの庭を眺めて懐かしんだ。


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