主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
憎悪のこもった酒呑童子の叫び声は、嘘偽りのない言葉のように聞こえた。
焦りと不安が入り混じり、主さまに否定してもらいたいと願うその絶叫――
「…椿さん…酒呑童子さんはやっぱりあなたのこと大好きなんだと思います。信じてあげてもいいと思う」
「けれど…あれは妖です!私たちとは相容れない存在で…」
「相容れなくなんてないです。考え方とか姿とか違うかもしれないけど、ちゃんと感情があって…好きって気持ちを抱けるんです。あなただってわかってるはず」
「ですが…!」
つい声を荒げた椿姫の甲高い声は、主さまと睨み合っていた酒呑童子の耳に届いた。
この場に椿姫が居る――
辺りを見回すと、一際百鬼たちが固まって密集している縁側が目に付く。
そこから聞こえたその声は、久々に酒呑童子を心の底から微笑ませた。
「そこに居るのか、椿姫」
「俺から目を逸らしてもいいのか?」
「な…、ぬぅっ!」
一瞬主さまから意識を逸らした結果、主さまに視線を戻すと庭に立っていた主さまの姿はなく、眼前で俊足の如き速さで刀を振り下ろす主さまが居た。
なんとか刀を合わせて防いだものの、主さまの刀は最強の妖刀天叢雲だ。
『おお鬼八の一族の者か。これは美味そうだ』
「ぐ…っ!俺は鬼八様の仇を必ずや討つと固く心に決めていた!華月の一族…お前たちを根絶やしにする!」
「…そもそもお前の目的は俺の命か椿姫か…どちらだ?」
力の違いを見せつけるように静かな主さまの問いかけにかっとなった酒呑童子は、目を吊り上げて牙を見せた。
「お前の妻子の命だと言ったらどうする?」
瞬間、主さまの妖気が爆発して天叢雲を伝って強力な振動が起きた。
それは刀を合わせていた酒呑童子にも伝い、飛び退って離れるとしびれが起きている手を見つめてくっと唇を吊り上げる。
「お前に大切なものができるとは驚きだな」
「…その言葉そっくりお前に返してやる」
「椿姫を食うのは俺だけだ。何度食った?食うだけでなくまさか…抱いたりしていないだろうな」
「……」
敢えて沈黙を選ぶと、酒呑童子は刀を鞘に収めて右腕を主さまに差し伸べた。
「殺す…!殺してやる!」
右腕が、変化を始めた。
焦りと不安が入り混じり、主さまに否定してもらいたいと願うその絶叫――
「…椿さん…酒呑童子さんはやっぱりあなたのこと大好きなんだと思います。信じてあげてもいいと思う」
「けれど…あれは妖です!私たちとは相容れない存在で…」
「相容れなくなんてないです。考え方とか姿とか違うかもしれないけど、ちゃんと感情があって…好きって気持ちを抱けるんです。あなただってわかってるはず」
「ですが…!」
つい声を荒げた椿姫の甲高い声は、主さまと睨み合っていた酒呑童子の耳に届いた。
この場に椿姫が居る――
辺りを見回すと、一際百鬼たちが固まって密集している縁側が目に付く。
そこから聞こえたその声は、久々に酒呑童子を心の底から微笑ませた。
「そこに居るのか、椿姫」
「俺から目を逸らしてもいいのか?」
「な…、ぬぅっ!」
一瞬主さまから意識を逸らした結果、主さまに視線を戻すと庭に立っていた主さまの姿はなく、眼前で俊足の如き速さで刀を振り下ろす主さまが居た。
なんとか刀を合わせて防いだものの、主さまの刀は最強の妖刀天叢雲だ。
『おお鬼八の一族の者か。これは美味そうだ』
「ぐ…っ!俺は鬼八様の仇を必ずや討つと固く心に決めていた!華月の一族…お前たちを根絶やしにする!」
「…そもそもお前の目的は俺の命か椿姫か…どちらだ?」
力の違いを見せつけるように静かな主さまの問いかけにかっとなった酒呑童子は、目を吊り上げて牙を見せた。
「お前の妻子の命だと言ったらどうする?」
瞬間、主さまの妖気が爆発して天叢雲を伝って強力な振動が起きた。
それは刀を合わせていた酒呑童子にも伝い、飛び退って離れるとしびれが起きている手を見つめてくっと唇を吊り上げる。
「お前に大切なものができるとは驚きだな」
「…その言葉そっくりお前に返してやる」
「椿姫を食うのは俺だけだ。何度食った?食うだけでなくまさか…抱いたりしていないだろうな」
「……」
敢えて沈黙を選ぶと、酒呑童子は刀を鞘に収めて右腕を主さまに差し伸べた。
「殺す…!殺してやる!」
右腕が、変化を始めた。