主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「俺に再び歯向かってくるのであれば、お前を殺す。椿姫は人の暮らしに戻す。お前の傍に置くとまた食われるだろうからな」


「何故それをお前が決める?ふざけるな!お前を百鬼夜行の主の座から引きずり下ろし、そして椿姫も取り戻す!」


雷光のような速さで空中を駆けた酒呑童子が主さまと刃を合わせた。

なんとか鬼八と同じ爪を防いだ主さまは、憎しみのあまり目が血走っている酒呑童子を憐みの瞳で見つめて息をついた。


その余裕な態度に再び激高した酒呑童子は、なんとか主さまに意識を集中しようとするが――百鬼たちの人垣が気になって集中することができない。


余裕の一手で攻撃を躱す主さまの姿を惚れ惚れと見つめていた百鬼たちは、各々が賛辞を口にして褒め称えた。


「さすがは主さまだな。あの小僧の攻撃を余裕で躱している」


「弄んでいるのか、主さまも悪いお方だ」


両手で顔を覆っていても聞こえる酒呑童子劣勢の声。

椿姫が恐る恐る顔を上げると、息吹は椿姫の手をぎゅっと握って再び諭した。


「あなたの姿を見に来たの。主さまに殺されたくないでしょ?あなたの本音を言って。酒呑童子さんもあなたの本音を聞きに来たの」


「ですが……けれど……」


「椿姫、ひとつそなたに言っていなかったことがある」


万が一息吹に何かあってはいけないと常に傍に居た晴明は、瞳を見開いて顔を上げた椿姫に淡々と事実を告げた。



「酒呑童子の命は長くはない。もってせいぜいあと数十年…そなたより早く死ぬかもしれないし、人の寿命程で恐らく確実に死ぬ。それを踏まえて考えなさい。決断を違えぬよう」


「……え…?酒呑童子が……死ぬ…?」


「そなたを長い間食ったことで体内に毒が回っている。もう取り返しがつかぬ状況故、妖としての寿命を全うすることはない。椿姫…酒呑童子の命はそなたと同じほどだ」



自分を食ったことで、酒呑童子が死ぬ――


事実を告げられた椿姫は、思考が停止してしまって晴明を見つめるばかり。


酒呑童子は、長くない――


その言葉が浸透した時、椿姫の脚がふらりと一歩前進した。
< 316 / 377 >

この作品をシェア

pagetop