主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
本来なら鬼八の血縁である自分が百鬼夜行の主の座についていたかもしれない――
嫉妬や激怒の感情に流されて何度も主さまに歯向かってきたが、百鬼の一匹だけで一騎当千の力を持つ妖たちに囲まれていた主さまには、なかなか刃が届かなかった。
だが今は――
「お前を殺す!殺す!!」
「連呼せずとも聞こえている。…お前が俺と息吹との絆を引き裂いた。お前だけは、許さん」
「はっ、椿姫の味に耐えられず食ったのはお前自身の責だろうが!」
正論に正論を返す水掛け論。
主さまは酒呑童子の爪の毒に意識を集中して攻撃を躱し続ける。
だが酒呑童子は気が散ったままで、なんとか主さまに集中するために何かを堪えていた。
それなのに――
「………酒呑童子…」
「!椿姫……!」
百鬼の人垣が割れて、そこからしずしずと現れたのは…ずっと逢いたいと願い続けていた女。
どこにも怪我をしている様子はなく顔色も良く、安堵した酒呑童子は一旦飛び退って主さまから距離を置くと、血の匂いの消えている椿姫に眉を潜めた。
「血の匂いが……」
「晴明様から頂いた札で私が醸し出す血の匂いは抑えられています。…ここへ何をしに来たのですか?私はもう、あなたの元には…」
「俺と行こう。ふたりで…誰も知らず、誰も来ない場所へ」
「…!」
すらすらと自らの口から出た言葉に酒呑童子も動揺したが、椿姫もまた動揺して唇を震わせる。
「私とどこへ行こうと言うのですか…?私をまた食べて独り占めするために…!?」
「違う!…お前を食いたくなかった!俺はただ…お前が…お前のことが愛しくなって……」
途切れ途切れの言葉には、真実の響きがこめられていた。
だがあれは鬼――
自分を食って、日々食い続けて、ここから逃げられないと毎日耳元で囁かれて神社に閉じこめられた長き日々――
それを忘れることのできない椿姫が言葉を詰まらせた時、息吹は椿姫の手を握って勇気づけた。
「主さまは私が止めるから、あなたは酒呑童子さんを」
結界を叩いていた轟音は止んだのに、何故か腹はずきずきと疼いていた。
嫉妬や激怒の感情に流されて何度も主さまに歯向かってきたが、百鬼の一匹だけで一騎当千の力を持つ妖たちに囲まれていた主さまには、なかなか刃が届かなかった。
だが今は――
「お前を殺す!殺す!!」
「連呼せずとも聞こえている。…お前が俺と息吹との絆を引き裂いた。お前だけは、許さん」
「はっ、椿姫の味に耐えられず食ったのはお前自身の責だろうが!」
正論に正論を返す水掛け論。
主さまは酒呑童子の爪の毒に意識を集中して攻撃を躱し続ける。
だが酒呑童子は気が散ったままで、なんとか主さまに集中するために何かを堪えていた。
それなのに――
「………酒呑童子…」
「!椿姫……!」
百鬼の人垣が割れて、そこからしずしずと現れたのは…ずっと逢いたいと願い続けていた女。
どこにも怪我をしている様子はなく顔色も良く、安堵した酒呑童子は一旦飛び退って主さまから距離を置くと、血の匂いの消えている椿姫に眉を潜めた。
「血の匂いが……」
「晴明様から頂いた札で私が醸し出す血の匂いは抑えられています。…ここへ何をしに来たのですか?私はもう、あなたの元には…」
「俺と行こう。ふたりで…誰も知らず、誰も来ない場所へ」
「…!」
すらすらと自らの口から出た言葉に酒呑童子も動揺したが、椿姫もまた動揺して唇を震わせる。
「私とどこへ行こうと言うのですか…?私をまた食べて独り占めするために…!?」
「違う!…お前を食いたくなかった!俺はただ…お前が…お前のことが愛しくなって……」
途切れ途切れの言葉には、真実の響きがこめられていた。
だがあれは鬼――
自分を食って、日々食い続けて、ここから逃げられないと毎日耳元で囁かれて神社に閉じこめられた長き日々――
それを忘れることのできない椿姫が言葉を詰まらせた時、息吹は椿姫の手を握って勇気づけた。
「主さまは私が止めるから、あなたは酒呑童子さんを」
結界を叩いていた轟音は止んだのに、何故か腹はずきずきと疼いていた。