主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまの身体が仄かに光り始めた。
息吹の大きな腹の上に乗せている主さまの手に光がじわじわ伝わっていくと、主さまの口が少し開いて呼吸をしているのがわかった。
「これは…息吹……まさかそなたの力なのか…?」
「主さま…主さま、そっちに行っちゃ…駄目…」
「……いぶ、き…」
どこかへ行こうとする主さまを引き止める息吹――
恐らく冥府の入り口に立っているであろう主さまを追いかけて行った息吹の魂は、主さまを捕まえて連れ戻したのだ。
そして息吹は、自身の生命力を主さまに分けようとしていた。
「十六夜…そなたは息吹に助けられたのだぞ。私の娘と孫を置いて逝くのは許さぬ。懸命に努力しろ。十六夜」
腹に空いた穴は塞がらないが、確実に主さまの生気は増えて真っ白な顔色も戻って来た気がした。
息吹といえば陣痛の痛みに必死に耐えながらも顔を主さまの方に向けて何度も名を呼んでいる。
健気なその姿に山姫が涙ぐみながら鼻を啜ると、縁側からのほほんとした声が聞こえた。
「ほう、ここで産むか。そこの死にかけの小僧が死ぬと娘さんが儂の祠に来なくなってしまう。仕方ないのう」
「地主神殿…来て下さったのですか」
「うむ、これを小僧の傷口に塗ると良い。後はその娘さんが助けてくれる」
真っ白な髭をたくわえた糸目の好々爺が懐から巾着を取り出して晴明に手渡すと、中には真っ白な粉が入っていた。
晴明はすぐさま主さまの元に戻って止血をして血流を止めている主さまの腹の傷口に塗ると、息を呑んで見守った。
「主さま……主さま…うぅ…っ」
「息吹しっかりしな!主さまが助かってあんたが死ぬなんて許さないからね!」
山姫が涙声で檄を飛ばすと、息吹は全身全霊で痛みに耐えながら腹の上に乗せている主さまの手を握った。
すると、今まで反応の無かった手が――息吹の手を握り返した。
目を見張った息吹がまた手を握ると、握り返してくるあたたかい手の力。
「息吹……息吹…」
「主さま…!戻って来てくれたの…?あんな所に行ってどうするつもりだったの…?後でたっぷり怒るんだから。……う、んん…っ」
「あ……っ、せ、晴明…!」
足元に居る山姫が声を上げた。
その理由とは――
息吹の大きな腹の上に乗せている主さまの手に光がじわじわ伝わっていくと、主さまの口が少し開いて呼吸をしているのがわかった。
「これは…息吹……まさかそなたの力なのか…?」
「主さま…主さま、そっちに行っちゃ…駄目…」
「……いぶ、き…」
どこかへ行こうとする主さまを引き止める息吹――
恐らく冥府の入り口に立っているであろう主さまを追いかけて行った息吹の魂は、主さまを捕まえて連れ戻したのだ。
そして息吹は、自身の生命力を主さまに分けようとしていた。
「十六夜…そなたは息吹に助けられたのだぞ。私の娘と孫を置いて逝くのは許さぬ。懸命に努力しろ。十六夜」
腹に空いた穴は塞がらないが、確実に主さまの生気は増えて真っ白な顔色も戻って来た気がした。
息吹といえば陣痛の痛みに必死に耐えながらも顔を主さまの方に向けて何度も名を呼んでいる。
健気なその姿に山姫が涙ぐみながら鼻を啜ると、縁側からのほほんとした声が聞こえた。
「ほう、ここで産むか。そこの死にかけの小僧が死ぬと娘さんが儂の祠に来なくなってしまう。仕方ないのう」
「地主神殿…来て下さったのですか」
「うむ、これを小僧の傷口に塗ると良い。後はその娘さんが助けてくれる」
真っ白な髭をたくわえた糸目の好々爺が懐から巾着を取り出して晴明に手渡すと、中には真っ白な粉が入っていた。
晴明はすぐさま主さまの元に戻って止血をして血流を止めている主さまの腹の傷口に塗ると、息を呑んで見守った。
「主さま……主さま…うぅ…っ」
「息吹しっかりしな!主さまが助かってあんたが死ぬなんて許さないからね!」
山姫が涙声で檄を飛ばすと、息吹は全身全霊で痛みに耐えながら腹の上に乗せている主さまの手を握った。
すると、今まで反応の無かった手が――息吹の手を握り返した。
目を見張った息吹がまた手を握ると、握り返してくるあたたかい手の力。
「息吹……息吹…」
「主さま…!戻って来てくれたの…?あんな所に行ってどうするつもりだったの…?後でたっぷり怒るんだから。……う、んん…っ」
「あ……っ、せ、晴明…!」
足元に居る山姫が声を上げた。
その理由とは――