主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
朔の誕生
酒呑童子と椿姫はその後客間に案内されて客人扱いとなった。
百鬼の中には強硬にそれを反対する者もあったが、酒呑童子が連れて来た配下は茨木童子のみ。
そして茨木童子もまた捕らえられて蔵に監禁され、各方面でうごめいていた酒呑童子擁護派の妖たちも次々と討たれていて散り散りとなっていた。
「どうしよう…すごく可愛い…」
出産直後で思うように身体の動かない息吹は、腕の中ですやすや眠っている赤子から目を離すことができずにずっと見つめ続けていた。
それは主さまも同じで、息吹が戻って来てくれたこと――そして無事に子が生まれてきたことに得も言われぬ感動を覚えて、つい声が震えてしまう。
「息吹……その子に名をつけたい」
「もうちょっと先だと思ってたから私なんにも考えてないよ。…主さまは考えてくれてたの?」
「考えていた。それにこの子に見合う名だと思う」
「なんていう名前なの?」
主さまは、疼いて痛む腹を押さえながら庭に目を遣って息吹を促した。
つられるように息吹も庭を見ると――空にはとても細い三日月が真っ白な光を放っていた。
「今夜は新月だ。その子には…朔(さく)という名を授けたい」
「朔…?朔……朔ちゃん…うん、いい名前。素敵!私も賛成っ」
「……息吹…椿姫の件だが本当にすまなかった。もうあんなことは二度とないと約束…」
言いかけた主さまを制するように人差し指を唇にあてて黙らせた息吹は、伸びてきた主さまの指に指を絡めて小さく首を振った。
「私こそごめんなさい。でも…本当に独りで産む覚悟はできてたの。だけど主さまのこと…全然嫌いになれなくって…」
「…………息吹…」
「この子が主さまに会いたいって言うのなら行かせてもいいかなとは思ってたよ。でも私は…主さまに会うときっと恋しくなっちゃうから…だから………ぅ…っ」
感情が募って泣き出してしまった息吹を抱きしめたくなって、痛む身体を引きずりながら朔を潰さないようにして息吹を抱きしめた。
背中に回ってきた息吹の指は震えていて、なおいっそう大切にしなければと強く自分自身を戒めた主さまは、そっと息吹のやわらかい唇に口づけをした。
百鬼の中には強硬にそれを反対する者もあったが、酒呑童子が連れて来た配下は茨木童子のみ。
そして茨木童子もまた捕らえられて蔵に監禁され、各方面でうごめいていた酒呑童子擁護派の妖たちも次々と討たれていて散り散りとなっていた。
「どうしよう…すごく可愛い…」
出産直後で思うように身体の動かない息吹は、腕の中ですやすや眠っている赤子から目を離すことができずにずっと見つめ続けていた。
それは主さまも同じで、息吹が戻って来てくれたこと――そして無事に子が生まれてきたことに得も言われぬ感動を覚えて、つい声が震えてしまう。
「息吹……その子に名をつけたい」
「もうちょっと先だと思ってたから私なんにも考えてないよ。…主さまは考えてくれてたの?」
「考えていた。それにこの子に見合う名だと思う」
「なんていう名前なの?」
主さまは、疼いて痛む腹を押さえながら庭に目を遣って息吹を促した。
つられるように息吹も庭を見ると――空にはとても細い三日月が真っ白な光を放っていた。
「今夜は新月だ。その子には…朔(さく)という名を授けたい」
「朔…?朔……朔ちゃん…うん、いい名前。素敵!私も賛成っ」
「……息吹…椿姫の件だが本当にすまなかった。もうあんなことは二度とないと約束…」
言いかけた主さまを制するように人差し指を唇にあてて黙らせた息吹は、伸びてきた主さまの指に指を絡めて小さく首を振った。
「私こそごめんなさい。でも…本当に独りで産む覚悟はできてたの。だけど主さまのこと…全然嫌いになれなくって…」
「…………息吹…」
「この子が主さまに会いたいって言うのなら行かせてもいいかなとは思ってたよ。でも私は…主さまに会うときっと恋しくなっちゃうから…だから………ぅ…っ」
感情が募って泣き出してしまった息吹を抱きしめたくなって、痛む身体を引きずりながら朔を潰さないようにして息吹を抱きしめた。
背中に回ってきた息吹の指は震えていて、なおいっそう大切にしなければと強く自分自身を戒めた主さまは、そっと息吹のやわらかい唇に口づけをした。