主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
いつも以上に、息吹から目が離せなくなった。
銀に稲荷寿司を振る舞い、にこやかに笑っている息吹から視線を外すことができなくなった主さまは、いつものように現れた晴明から煙管で頭を叩かれた。
「私の愛娘に穴が空くではないか」
「…うるさい。あれは俺のものだぞ」
「ほう?そなたのあることないことあの子に全て話せば、どうなってしまうだろうかねえ」
痛いところを突かれてぐっと押し黙った主さまに肩を寄せて縁側に座った晴明は、声を潜めて銀の尻尾を握って嬉しそうにしている息吹を見つめた。
「あの子は意外に聡い。そなたの様子がおかしいことなどすでに気付いていると思うが」
「そんなことはない。いつも通りにしている」
夕暮れが近付くと、庭先には百鬼たちが集まってくる。
皆が皆赤子の頃から息吹を知っているため、息吹はすぐ皆に取り囲まれて見えなくなったが、主さまは息吹が見えなくなってもじっと集団を見つめていた。
「…お前は息吹が泉に触れれば…普通の人になってしまうと思っているのか?」
「その可能性はある。僅かでも可能性がある限りは私は断固として許すことができぬ」
「俺よりお前が言えばあれは言うことを聞くと思うが」
「私が言っても構わぬが、いつまでも子離れ親離れできるのは見苦しいからねえ」
「…お前が永遠に子離れなどするものか」
話している間に人垣を割って戻って来た息吹は、眠っている朔を主さまの腕に抱かせると、いつものように笑顔で主さまを送り出す。
「…ああ、行って来る」
「早く泉が見つかるといいね。あんまり無理しないでね」
――老いることがなくなって永遠に美しく可愛らしいままの息吹が傍に居なくなる不安――
その想像にぞくっとした主さまは、足早に空を駆け上がると、いつまでも手を振っている息吹を肩越しに振り返って唇を噛み締める。
「…どう切り出せと…?」
椿姫と懇意になった息吹は、恐らくついて行くと言って聞かないだろう。
…断れる自信など、微塵も無かった。
銀に稲荷寿司を振る舞い、にこやかに笑っている息吹から視線を外すことができなくなった主さまは、いつものように現れた晴明から煙管で頭を叩かれた。
「私の愛娘に穴が空くではないか」
「…うるさい。あれは俺のものだぞ」
「ほう?そなたのあることないことあの子に全て話せば、どうなってしまうだろうかねえ」
痛いところを突かれてぐっと押し黙った主さまに肩を寄せて縁側に座った晴明は、声を潜めて銀の尻尾を握って嬉しそうにしている息吹を見つめた。
「あの子は意外に聡い。そなたの様子がおかしいことなどすでに気付いていると思うが」
「そんなことはない。いつも通りにしている」
夕暮れが近付くと、庭先には百鬼たちが集まってくる。
皆が皆赤子の頃から息吹を知っているため、息吹はすぐ皆に取り囲まれて見えなくなったが、主さまは息吹が見えなくなってもじっと集団を見つめていた。
「…お前は息吹が泉に触れれば…普通の人になってしまうと思っているのか?」
「その可能性はある。僅かでも可能性がある限りは私は断固として許すことができぬ」
「俺よりお前が言えばあれは言うことを聞くと思うが」
「私が言っても構わぬが、いつまでも子離れ親離れできるのは見苦しいからねえ」
「…お前が永遠に子離れなどするものか」
話している間に人垣を割って戻って来た息吹は、眠っている朔を主さまの腕に抱かせると、いつものように笑顔で主さまを送り出す。
「…ああ、行って来る」
「早く泉が見つかるといいね。あんまり無理しないでね」
――老いることがなくなって永遠に美しく可愛らしいままの息吹が傍に居なくなる不安――
その想像にぞくっとした主さまは、足早に空を駆け上がると、いつまでも手を振っている息吹を肩越しに振り返って唇を噛み締める。
「…どう切り出せと…?」
椿姫と懇意になった息吹は、恐らくついて行くと言って聞かないだろう。
…断れる自信など、微塵も無かった。