主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「なんだか主さまの様子がおかしいの」


そう切り出した息吹の横顔を見つめた晴明は、意外と敏感なところのある息吹に気取られないようにやんわりと微笑を浮かべた。


「そうかな?泉が見つからずに焦りを覚えているのかもねえ」


「ううん、そんなんじゃなくて…。なんていうか…いつも見られてるっていうか…」


「いつも視界に捉えていたいほどそなたのことを愛しているということだよ」


頬を桜色に染めた息吹の肩を抱き寄せた晴明は、常に冷静で感情を見せない主さまがひとたび動揺するとこうなってしまうことに内心舌打ちしつつ、膝にちょこんと座っている朔の頭を撫でた。


案の定息吹が一緒に泉へ行きたいと言ったこと――すでに主さまから聞いていた。

それまで積極的に泉を探していた主さまの脚が鈍ったこと――それも感じていた。

少しの可能性だけれど、息吹を失うかもしれないという恐怖に…覚えているのだ。

あの恐ろしい鬼が――


「十六夜は疲れているのだ。そなたが妻として癒してあげなさい。喜ぶようなこと、日常の些細な話…あれには今まで無用だったことを沢山ね」


「はい。でも私、人より長く生きれるみたいだから、時間をかけてそうしたいなって思ってるの」


「それも大事だけれどね。とにかく質問攻めにしたり我儘を言ったりせぬよう。叱られたくないだろう?」


晴明の切れ長の瞳をじっと見つめた息吹は、こくんと頷いて晴明の膝から朔を抱き上げると、まだ部屋で寝ている主さまに思いを馳せる。


椿姫と酒呑童子は、仲睦まじく過ごしている。

時々主さまと言葉を交わすこともあり、敵対関係にある立場から抜け出そうとしているのが手に取るようにわかった。


だが…


「主さま…何を隠してるの?」


――確実に自分が絡んでいることだと感じていた。

主さまが動揺したり態度がおかしくなるのは、それ以外ありえないのだから。


…椿姫と一緒に泉へ行きたいと思っていたが、そうおねだりしてから主さまの様子がおかしくなったのだ。

それが我儘になるのならば…諦めなくてはいけないだろう。


「私だって主さまを大切にしたいんだから…」


自分を拾って育ててくれた大切で愛しい男――


息吹は泉行きを諦めることに決めて、腰を上げた。
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