主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
縁側で物憂げな表情をしている主さまの隣に座った息吹は、隣に座ってじっと横顔を見上げた後、懐から小さな巾着を取り出した。


「主さま、最近疲れてるでしょ?大丈夫?」


「…心配するな。俺を誰だと思っている」


「主さまがとっても強いのはわかってるけど、心配なものは心配なの。ねえ、私にできることがあったらなんでも言って」


息吹の声色に含まれる労わりに気付いた主さまは、口元に自然と笑みを浮かべてようやく息吹の方に顔を向けた。


「お前にできることなど何もない。……傍に居てくれればそれでいい」


「主さま…」


恥ずかしいことを言ってしまったことにかっと耳を赤くしてそっぽを向いた主さまにきゅんときた息吹は、巾着袋から桃色の金平糖を出して主さまの口にねじ込んだ。


「私ね、泉が見つかってもついて行かないことにしました。ここでお留守番します」


「!……急にどうしたんだ。行きたがっていたじゃないか」


「うん、でも朔ちゃんのお世話もあるし。椿さんたちのことは主さまにお任せします。この金平糖美味しいね」


――最近ずっと頭を悩ませていた問題が解決しようとしていたが、主さまは怪訝な表情で息吹の右腕を掴むと、ぐっと顔を近付けて真意を探る。


「……俺のせいか?」


「え、どうして?自分でお留守番しようって決めたんだよ?私がついて行っても足手まといなのはわかってるの。だから、ここで待ってるね」


「お前は…それでいいんだな?」


「ふふっ、だからお留守番するって言って……、きゃっ」


ふいに主さまが息吹を強く抱きしめる。

突然のことに息をするのも忘れてすぐ近くにある主さまの冷徹でいて端正な美貌を見上げた息吹は――心底ほっとした微笑を浮かべていた主さまに見惚れてぽうっとなった。


「…必ず見つけてくる。だからお前はここで俺の帰りを待て」


「はい。主さま、頑張りすぎないようにね」


――主さまの背中に腕を回して抱き合う二人の様子を庭の木陰から見てしまっていた雪男は、抱っこしていた朔を優しく揺すりながら唇を尖らせていた。


「ちぇっ、見せつけるなよな」


「あぶー」


「よーしよし、さあ、遊んでやるぞー」


雪男の甲斐甲斐しい世話はますます上達して、庭先に朔の可愛らしい笑い声が弾けた。
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