主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまと息吹が仲睦まじくしている姿を見るのは嫌いではない。

むしろ、息吹が嬉しそうで楽しそうにしていると、それを喜ばしく思う。

「それってさあ…つまり俺は息吹のことをそんなに好きじゃなくなったってことか?」

自問自答しつつ、雪男は脚によじ登ってくる朔を抱き上げてやりながら、ちらりと縁側を盗み見る。

その時主さまと話していた息吹が視線に気付いたかのようにこちらを見た。

慌てた雪男が視線を逸らそうとすると、息吹はふわりと笑ってころころ笑った。

「雪ちゃんがあやし上手だから本当に助かってるよ。私が小さかった頃もそうしてあやしてくれてたんでしょ?」


「お前ん時はほんと大変だったんだぜ。
言うこときかないし、我儘だったし。その点朔は楽だなあ」


「え、私我儘だった?雪ちゃんの言うことちゃんと聞いてたもんっ」


「嘘つけっつーの。だけどお前はちっさい時から可愛かったなあ。まさかこんないい女になるとは思ってなかったけ…ど…」


ーー言わなくてもいいことを口走ってしまった瞬間、主さまの射抜くような殺気を受けてはっとなったが、すでに後の祭り。

頬を赤らめて俯く息吹のいじらしさに萌えてしまった雪男ほ先程の“好きじゃくなったかも“発言を一瞬にして打ち消した。

「やっぱ無理。息吹、早く主さまと離縁しろよな。で、次は俺の子を産んで…うわっ」


橙色の紙紐が刃のようになって頬をかすめていき、触れた指先には朱色の血が。

主さまの肩を強く突いて駆け寄ってきた息吹が懐から出した手拭いで血を拭き取りながら唇を尖らせた。

「ごめんね雪ちゃん。主さまったら」


「まっ、仕方ないだろ。主さまー、俺に寝取られないだけ感謝しろよな」


「…冗談も大概にしておけ…」


「ああ怖い怖い!あ、息吹、ちなみに今のは冗談のようで冗談じゃないからな。覚えとけよ」


言いたいことを全てぶちまけた雪男は、朔を肩車させると風の如くの速さでその場から逃げ出した。

「朔、お前は父親似にはなるなよな。…まあ顔は手遅れだけど」

小さいながらもすでに主さまに似ている朔に話しかけると、わかっていないながらも理解したかのようにこっくりと頷いた。

雪男は大満足しながら、朔と庭の探索に出かけて主さまの怒りが解けるまで戻らなかった。

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