主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
いつの時も、晴明は正しい。
それを主さまも疑ったことはない。
だからこそ、晴明から借りた地図に記されている場所へと一直線に向かうことができていた。
「何やらただならぬ気配がしてきたな。時々晴明を末恐ろしく感じることがないか?」
「時々だと?俺はいつでも感じているが」
主さまがこういった雑談に応じることは珍しい。
安心感からか、身内の話題だからかーー
表情も意外に柔和だが、それは主さまのすぐ後ろを行く銀しか知らない。
「椿姫が完全なる人に戻り、酒呑童子は人同様の寿命で死ぬ。十六夜、お前もそうなる運命だったな」
「…」
「息吹たっての願いだからか?それともお前の…」
「うるさい。黙れ」
とうとう怒られてしまった銀は尻尾を一振りすると、幽玄町から遠く離れた空の上で、若葉を思った。
「俺もいずれつらい思いをする。あいつはどうあがいても先に死んでしまうからな」
「黙れと言ったつもりだが、聞こえなかったか?」
その声にわずかに寄り添うような空気を感じた銀は、肩を竦めて仕方ないと表現した。
「人と妖なんだぞ。俺は若葉が幸せになって寿命を全うする最期を見たいんだ。お前だって…」
「…着いた。このあたりだ」
主さまのひとつに束ねた長い髪が風にそよいだ。
どこか不穏な空気で、生暖かい風に、百鬼たちの足も止まった。
だが彼らの瞳には恐れの微塵もない。
何故なら、主さまが居るから。
「酒吞童子、こっちへ来い」
呼ばれた酒呑童子は、腕に抱いていた椿姫と一瞬視線を合わせると、静かに前進して主さまの隣へと立った。
「成功する保証はない。…だが、信じろ」
「…わかっている」
眼下には、月の光をたたえた泉が見えていた。
それを主さまも疑ったことはない。
だからこそ、晴明から借りた地図に記されている場所へと一直線に向かうことができていた。
「何やらただならぬ気配がしてきたな。時々晴明を末恐ろしく感じることがないか?」
「時々だと?俺はいつでも感じているが」
主さまがこういった雑談に応じることは珍しい。
安心感からか、身内の話題だからかーー
表情も意外に柔和だが、それは主さまのすぐ後ろを行く銀しか知らない。
「椿姫が完全なる人に戻り、酒呑童子は人同様の寿命で死ぬ。十六夜、お前もそうなる運命だったな」
「…」
「息吹たっての願いだからか?それともお前の…」
「うるさい。黙れ」
とうとう怒られてしまった銀は尻尾を一振りすると、幽玄町から遠く離れた空の上で、若葉を思った。
「俺もいずれつらい思いをする。あいつはどうあがいても先に死んでしまうからな」
「黙れと言ったつもりだが、聞こえなかったか?」
その声にわずかに寄り添うような空気を感じた銀は、肩を竦めて仕方ないと表現した。
「人と妖なんだぞ。俺は若葉が幸せになって寿命を全うする最期を見たいんだ。お前だって…」
「…着いた。このあたりだ」
主さまのひとつに束ねた長い髪が風にそよいだ。
どこか不穏な空気で、生暖かい風に、百鬼たちの足も止まった。
だが彼らの瞳には恐れの微塵もない。
何故なら、主さまが居るから。
「酒吞童子、こっちへ来い」
呼ばれた酒呑童子は、腕に抱いていた椿姫と一瞬視線を合わせると、静かに前進して主さまの隣へと立った。
「成功する保証はない。…だが、信じろ」
「…わかっている」
眼下には、月の光をたたえた泉が見えていた。