主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
椿姫の顔が笑顔に溢れた瞬間、主さまは相手をしていた妖を一刀両断して鞘に刀を収めた。
「酒呑童子、確認をしろ」
「…どういうことだ。齧って確認でもしろと?」
「…俺がやってもいいのなら、やるが?」
「いや待て十六夜。そうなるとお前は再び伊吹殿約束を違えてしまうぞ」
銀に窘められた主さまが身体を硬直させると、酒呑童子はしばらくの間椿姫と視線を合わせて、頷いた。
「椿姫…どちらにしろ、俺が必ず責任を取る」
「ええ。私のことなら大丈夫ですから」
すっと差し出した白い椿姫の右腕を取った酒呑童子は、小指を愛しげに取ると、ゆっくり牙を食い込ませた。
「痛…っ」
間を置いて流れ出した真っ赤な血。
今まではどれだけ喰われても血など出なかったが、今は違う。
慌てて顔を離した酒呑童子が思わず笑みを浮かべて主さまを振り返る。
腕を組んでそれを見守っていた主さまは、小さく一度頷くと、百鬼たちを呼び寄せた。
「終わった。撤収するぞ」
ーーもし息吹がこの泉に入ったならば、どうなるのだろうか?
そんな詮無い考えがふと頭をよぎって、いっそ今この場でこの泉を破壊してしまおうかともうひとりの自分が囁いているのがわかる。
無意識に拳に力を入れた主さまが目に入った銀は、尻尾に力を思い切りこめて主さまの腰を打った。
…もちろん殺気のこもった目で射抜かれたが、銀は気にしない。
「さっさと帰ろう。早く息吹に報告したくないのか?」
「…わかっている」
手に手を取り合って喜び合う椿姫と酒呑童子。
人と妖は手を取り合って生きてゆけるーー
改めて再確認した主さまは、地を蹴って上空へ躍り出ると、またちらりと泉に目を遣った。
…残しておけば、いつかまた役に立つ時が来るかもしれない、と考えて、速度を上げる。
恐らく息吹はもう眠っているだろうが、そっと一緒の寝床に入って笑顔を見てやろう。
そう悪巧みをして、口の端を僅かに上げて笑った。
「酒呑童子、確認をしろ」
「…どういうことだ。齧って確認でもしろと?」
「…俺がやってもいいのなら、やるが?」
「いや待て十六夜。そうなるとお前は再び伊吹殿約束を違えてしまうぞ」
銀に窘められた主さまが身体を硬直させると、酒呑童子はしばらくの間椿姫と視線を合わせて、頷いた。
「椿姫…どちらにしろ、俺が必ず責任を取る」
「ええ。私のことなら大丈夫ですから」
すっと差し出した白い椿姫の右腕を取った酒呑童子は、小指を愛しげに取ると、ゆっくり牙を食い込ませた。
「痛…っ」
間を置いて流れ出した真っ赤な血。
今まではどれだけ喰われても血など出なかったが、今は違う。
慌てて顔を離した酒呑童子が思わず笑みを浮かべて主さまを振り返る。
腕を組んでそれを見守っていた主さまは、小さく一度頷くと、百鬼たちを呼び寄せた。
「終わった。撤収するぞ」
ーーもし息吹がこの泉に入ったならば、どうなるのだろうか?
そんな詮無い考えがふと頭をよぎって、いっそ今この場でこの泉を破壊してしまおうかともうひとりの自分が囁いているのがわかる。
無意識に拳に力を入れた主さまが目に入った銀は、尻尾に力を思い切りこめて主さまの腰を打った。
…もちろん殺気のこもった目で射抜かれたが、銀は気にしない。
「さっさと帰ろう。早く息吹に報告したくないのか?」
「…わかっている」
手に手を取り合って喜び合う椿姫と酒呑童子。
人と妖は手を取り合って生きてゆけるーー
改めて再確認した主さまは、地を蹴って上空へ躍り出ると、またちらりと泉に目を遣った。
…残しておけば、いつかまた役に立つ時が来るかもしれない、と考えて、速度を上げる。
恐らく息吹はもう眠っているだろうが、そっと一緒の寝床に入って笑顔を見てやろう。
そう悪巧みをして、口の端を僅かに上げて笑った。