主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹との新婚生活は、とても穏やかで幸せなものだった。
…無論、晴明や雪男からの干渉や邪魔は入るのだが、それでも今までつらい思いをさせていたので、こんなにゆったりとした日常があったのかと主さまは驚く毎日だ。
息吹は毎朝ちゃんと朝餉を作って一緒に食べることを夢見ていたので、食事が必要ない主さまはそれに付き合い、そして眠る。
本来なら夕方まで眠っているのだが、息吹と夫婦になってからは一緒の時間を少しでも共有したくて、昼過ぎには起きるようにしていた。
庭の花に水遣りをしたり掃除をしたり――とにかくじっとしていない息吹がちょこまかと動く姿は、見ているだけで楽しくて笑みが零れてしまう。
「主さまはまた丸くなりましたねえ。息吹と夫婦になってくれて本当によかったですよ」
「…どういう意味だ」
「だって主さまはあまり笑わないですし、すぐ怒っていたじゃないですか。でも最近は穏やかになったって百鬼たちは口々に言ってますよ」
確かに…息吹と夫婦になるまでは、尖った性格をしていたかもしれない。
興味のあるものなどなかったし、妖の頂点に立つ者としての威厳と力を誇示しなければならなかったのだから、笑っている顔など見せるはずもない。
だが今は…
「主さまーっ、桃色の可愛いお花が咲いてるの!後でお部屋に生けるね!」
「ああ。そろそろ少し手を休めてこっちに来い」
「うん、もうちょっとー」
そこで自然と口元に笑みを上らせた主さまを見た山姫がぷっと噴き出し、腰を上げるとぺこりと頭を下げた。
「じゃあまた夕方戻って来ますから、それまで大人しくしていて下さいね」
「…お前こそ晴明に捨てられない程度にあいつを困らせて来い。…百鬼から抜けても構わないんだぞ」
「いいえ、あたしは百鬼で居たいんです。雪男、後を頼んだからね」
「わかってるって。気を付けてな」
小さな雪男が手を振り、息吹が手桶を置いて玄関に回って晴明と山姫の見送りをする。
主さまは縁側で煙管を吹かしながらぼんやりとしていたが、息吹が戻って来ると煙管を懐に直して隣に座って来た息吹の肩に軽く肩をぶつけた。
「主さま眠たくないの?私と夫婦になるまでは寝坊助さんだったのに」
「貴重な新婚生活の時間を減らしたくない。…どうだ、あの花畑に連れて行ってやろうか」
「黄金の花のっ?うん、行きたい!お弁当作ってもいいっ?」
主さまの切れ長の瞳が和らぐ。
息吹は何度も主さまの長い髪を撫でて、嬉しさを爆発させた。
…無論、晴明や雪男からの干渉や邪魔は入るのだが、それでも今までつらい思いをさせていたので、こんなにゆったりとした日常があったのかと主さまは驚く毎日だ。
息吹は毎朝ちゃんと朝餉を作って一緒に食べることを夢見ていたので、食事が必要ない主さまはそれに付き合い、そして眠る。
本来なら夕方まで眠っているのだが、息吹と夫婦になってからは一緒の時間を少しでも共有したくて、昼過ぎには起きるようにしていた。
庭の花に水遣りをしたり掃除をしたり――とにかくじっとしていない息吹がちょこまかと動く姿は、見ているだけで楽しくて笑みが零れてしまう。
「主さまはまた丸くなりましたねえ。息吹と夫婦になってくれて本当によかったですよ」
「…どういう意味だ」
「だって主さまはあまり笑わないですし、すぐ怒っていたじゃないですか。でも最近は穏やかになったって百鬼たちは口々に言ってますよ」
確かに…息吹と夫婦になるまでは、尖った性格をしていたかもしれない。
興味のあるものなどなかったし、妖の頂点に立つ者としての威厳と力を誇示しなければならなかったのだから、笑っている顔など見せるはずもない。
だが今は…
「主さまーっ、桃色の可愛いお花が咲いてるの!後でお部屋に生けるね!」
「ああ。そろそろ少し手を休めてこっちに来い」
「うん、もうちょっとー」
そこで自然と口元に笑みを上らせた主さまを見た山姫がぷっと噴き出し、腰を上げるとぺこりと頭を下げた。
「じゃあまた夕方戻って来ますから、それまで大人しくしていて下さいね」
「…お前こそ晴明に捨てられない程度にあいつを困らせて来い。…百鬼から抜けても構わないんだぞ」
「いいえ、あたしは百鬼で居たいんです。雪男、後を頼んだからね」
「わかってるって。気を付けてな」
小さな雪男が手を振り、息吹が手桶を置いて玄関に回って晴明と山姫の見送りをする。
主さまは縁側で煙管を吹かしながらぼんやりとしていたが、息吹が戻って来ると煙管を懐に直して隣に座って来た息吹の肩に軽く肩をぶつけた。
「主さま眠たくないの?私と夫婦になるまでは寝坊助さんだったのに」
「貴重な新婚生活の時間を減らしたくない。…どうだ、あの花畑に連れて行ってやろうか」
「黄金の花のっ?うん、行きたい!お弁当作ってもいいっ?」
主さまの切れ長の瞳が和らぐ。
息吹は何度も主さまの長い髪を撫でて、嬉しさを爆発させた。