主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまは、息吹と静かな時を過ごすのが好きだ。

幼い頃から読書が好きで、人と戯れるのが好きではなかった主さまは独りで過ごすことが多く、またそれを苦痛に感じたこともなかった。

なので息吹と一緒に1冊の本を読みながら、登場人物の台詞をおどけながら読んだり、それが何より至福の時だった。

息吹は晴明直々に教養を叩き込まれたために難解な本も読むことができるので、主さまが集めてきた本に興味を持つと一緒に読みたがるので、主さまもめんどくさそうな表情を作りながらも実は嬉しくて仕方がない。


「人の書いた物語が多いね。どうやって集めたの?」


「人の姿をとって人の村に降りる者が居る時は、頼んで手に入れてもらう。俺たちと人は感覚が違うから、読んでいて楽しいんだ」


「ふうん?父様のお屋敷は術関係のものが多かったから私には読めなかったけど、時々道長様が面白い本を持って来てくれたの。道長様、元気かな…」


道長とは息吹が主さまの元へ嫁いだ時以来会っていない。

だが赤鬼と青鬼の報告によれば、時々幽玄橋の前に馬に乗って現れては幽玄町の方をしばらく見つめて帰って行くらしい。

息吹はその話を聞いてから時々幽玄橋へ行くのだが、まだ道長とは会えていない。


「紫式部と親しくしていると晴明から聞いたぞ。…他の男のことなど口にするな」


「だって道長様は私が幽玄町から逃げ出した時からずっと優しくしてくれたの。平安町で唯一のお友達だったんだから」


「…また平安町に行きたいか?出かける程度なら別に俺は構わないが」


息吹は本から顔を上げて肩を抱いてきた主さまに寄りかかると、首を振った。

この男に嫁ぐと決めてから平安町には戻らない覚悟を決めていたから。


「ううん、ほとんどのものは幽玄町で手に入るし、手に入らないものは父様に頼んで買ってきてもらうから大丈夫」


「…明日発とう。もう親父や母とは沢山話しただろう?」


「うん。母様や雪ちゃんにいつまでもお留守番してもらうわけにはいかないし、明日戻ろうね。ねえ主さま、お義母様たちはなんのためにここに呼び寄せたのかなあ」


主さまは本を閉じて息吹に膝枕をしてもらうと、またふかふかの耳を触られながら瞳を閉じて小さく笑った。


「俺の嫁をいびるつもりだったんだろうが、無駄だったな。お前にはいびるような弱点がない」


絶賛された息吹は、主さまの額を撫でてうっとりさせると、自身も主さまの尻尾や耳を触ってうっとりして楽しい時を過ごした。
< 46 / 377 >

この作品をシェア

pagetop