主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
この家に居る間は寝るのが惜しい。

周と潭月の夫婦漫才のような掛け合いも面白かったし、何より自分が知らない時代の主さまの話を聞くことができるので、眠りたくなかった。


「時に息吹姫。夫婦となったからにはわたくしも孫が見たい。まだかえ?」


「まだなんです…。妖と人との間に子供はできにくいから努力しようね、って主さまは言ってくれるんですけど…その…主さまは夜居ないし…」


頬を赤らめて俯いた息吹の悩みについて周は共感できる。

潭月が百鬼夜行を行っていた時に妻として家を守る役目を担っていた周も当時同じ悩みを抱えていたのだから。

だが息吹と違うのは、自分たちは妖同士だが…息吹は人で、主さまは妖。

考え方も違えば価値観も違うし、主さまは昼夜関係なく息吹を抱きたいと思っているかもしれないが、息吹は朝っぱらからそんなことはできないと思っているのだろう。

そうなれば…孫を見ることができるのは、まだまだ先のことだ。


「気負わずにいるのが1番じゃ。子というものは気負っている間は出来ぬし、気を抜けばぽろっとできるもの。わたくしがそうじゃった」


「そうなんですか?私今気負ってるのかな」


「そう見える。自然に過ごしなさい。そなたは妖よりも長く生きる可能性がある。生き急ぐことはない」


周に励まされて笑顔で頷いた息吹は、もう深夜になっていたことに気付いてずっと一緒に居てくれた潭月と周に頭を下げて主さまの自室に戻った。

主さまが帰る頃に寝ていないと怒られるので床に入ってみたが…子供のことに関しては真剣に悩んでいたりする。

ただ主さまは助平なので、悩まずともすぐにできるかもしれないが、ここに来たことでより周たちに孫を抱かせてやりたいという思いが強くなった。


「主さまは助平だから大丈夫か…」


本人が聞いたら絶対怒られるようなことを呟いて瞳を閉じるとあっという間に眠たくなって瞳を閉じた。

この床も主さまの匂いがついているので朝までぐっすりだった息吹は、庭で八咫烏が小さく鳴いた声に気付いて身体を起こす。


庭に敷き詰められた砂利を踏む音がしたので障子を開けると、ちょうど主さまが帰って来たところで、寝乱れたまま草履を履いて正面から主さまに抱き着いた。


「主さまお帰りなさい」


いつものように労をねぎらい、一緒に仮眠をとって昼まで眠った。
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