主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
向日葵の花が咲き乱れる花畑が、息吹との逢引きの場だ。

屋敷に居るとどうしても邪魔が入るので、我慢できなくなったら息吹をここに連れてきて2人きりになっていちゃつける――

息吹のためだと言いつつも実は自分のためで、手際よく団子を作って風呂敷に包むとそれを胸に抱きしめた息吹が頬を上気させて草履を履いた。


「今が満開の時期だ。あの花の種を採って植えてみたらどうだ?」


「え、いいのっ?うーん…でもそうなっちゃうと、あそこに行ける楽しみが減っちゃう気がするし…。このままでいいの。あそこに行けば主さまと2人きりになれるから」


「…ば、馬鹿が…何を言う!」


照れ隠しについ怒ってしまうと、息吹は反省した風でもなく笑っている。

こういう性格だからこそ癒されるのだが、それを口にできずにもやもやしてしまう不器用な主さまは、息吹を抱っこして引き留めようと駆け寄ってくる雪男をちらりと一瞥して鼻を鳴らすと、空を駆け上がった。


「天気がすごく良いね、実はこっそりお酒も持ってきたから一緒に呑も」


「昼間から酒か?飲兵衛め」


そう言いつつも内心嬉しい主さまは、息吹が瞳を大きく開いて消し飛んで行く景色を眺めて楽しんでいる姿にまた癒されて、秘密の花園へと着くと、息吹を降ろした。


「うわあ、本当に満開だね!ここで主さまとはぐれちゃったら大変!主さま、離れないでね?」


「…あ、ああ。…暑い。眩しい。木陰へ行くぞ」


妖は陽の光を嫌う物が多く、主さまも例外ではないので木陰へ移動すると、息吹が早速風呂敷を広げて団子や酒が入った小さな瓶や御猪口を取り出した。

夜は百鬼夜行へ出かけなければならないので、こういった晩酌の機会を持てるのは日中か明け方しか無い。

…無論子作りの観点からも、日中は息吹が恥ずかしがって断固嫌だと拒否するし、明け方は眠っていることが多いし――子が欲しくてもそういう機会が少ないのだから、どうしようもないのだ。


「はい主さまどうぞ。私にもお酒注いでくれると嬉しいな」


「…そういえばさっき子がどうだとか言っていたな。こ…ここなら誰にも邪魔されない。お、お前さえよければ…」


最初きょとんとしていたが、息吹の瞳がどんどん大きくなり、恥ずかしくなった主さまは一気に酒を呷ると着物の袖で口元を拭いながら顔を隠した。


「主さま…」


「嫌ならいい。少し遊んだら戻るぞ」


「うん…主さま、私はいいよ。主さまとの赤ちゃんが欲しいから…その…私も……」


もじもじ、もじもじ。


ひとしきり照れまくった後、主さまはそっと息吹の肩を抱いて、引き寄せた。
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